藤原宴司の声は低く、かすれていて、欲情を含み、明らかに挑発的な調子を帯びていた。
深谷千早は胸がわずかに震えた。
普通の人間ならこんな誘惑を拒めるはずがない。
千早は恥ずかしさと怒りが入り混じった気持ちになった。
このクソ男は美しい外見以外に何があるというの?!
うーん。
そうだ、お金がある。
たくさんのお金が。
「もし奥様が強く望まれるなら、夫としての義務を果たすことも不可能ではありませんが」宴司は姿勢を正した。
彼はすでに千早の傷に薬を塗り終えていた。
彼は白いシャツを着ていた。
おそらくまだ入浴していないのだろう。
シャツのボタンは三つ目まで留められていた。
彼の胸元がかすかに見え隠れしていた。
宴司は骨ばった指を留められたボタンに置き、優雅に、ゆっくりと残りのボタンを外し始めた。
千早は少し緊張して宴司を見つめた。
彼の口元の笑みには、明らかに危険な色が混じっていた。
千早は突然、足を宴司の顔に向かって蹴り出した。
こんなにイケメンに生まれやがって!
私を誘惑しようとしやがって。
足が彼の顔に触れる寸前、足首が宴司にがっちりと掴まれた。
千早はもがいたが、まったく動けなかった。
「藤原宴司、離して……んっ!」
千早の胸が震えた。
心臓が激しく鼓動し、まるで一拍抜けたかのようだった。
彼女は足の裏に突然の柔らかさを感じ、温かく湿った息が当たるのを明確に感じた。
くすぐったくて、そして少し…官能的だった。
宴司のバカ、彼女の足の裏にキスをしているのだ。
汚いとも思わないのか?!
そして彼女は長い間、抵抗することすら忘れていた。
彼女はただじっと宴司を見つめ、彼のいつもとは違う行動を見ていた。
空気中には、言葉では表現できない何かが漂っていた。
気温が本当に上昇しているようだった。
千早は顔がどんどん熱くなるのを感じた……
心拍数も一緒に上がり、制御不能になっていた。
千早は唇を噛んだ。
まるで自制しようとしているかのように。
全身がなぜか落ち着かなかった。
藤原宴司は一体何がしたいの?!
やるならさっさとやればいいのに。
どうせ、彼女は損をしないのだから。
こんな男、これから一回寝るごとに一回減るだけだ。
彼女は突然理解した。
しかし今、宴司はまったく動く気配がなかった。