第111章 藤原宴司が深谷千早を見つける(1)

藤原宴司は白いスニーカーの縁を拭いていた。

彼は潔癖症で、自分の靴に泥が付くのを許せなかった。

声が聞こえた瞬間、彼の指は明らかに一瞬止まった。

明石和祺はすぐに社長の動きに気づき、急いで尋ねた。「まだ到着していないんですか?」

道理で。

途中で引き返したのでなければ、のんびり登ってきたとしても、もう着いているはずだった。

「はい、全員揃いましたが、深谷社長だけお見えになっていません」スタッフは少し心配そうに言った。

「彼女に電話しましたか?」

「かけましたが、繋がりません」

「途中で直接ホテルに戻ったのでは?」明石が尋ねた。

「それはないだろう」宴司が近づいてきて言った。「彼女が登れないなら、事前に一言言うはずだ」

明石も、奥様がそのままホテルに戻るとは思えなかった。

「念のため、ホテルに電話して、千早が戻ったかどうか確認してくれ」宴司は指示した。

彼の指が明らかに強く握りしめられているのが見えた。

スタッフはすぐにホテルのフロントに電話をかけた。

フロントは深谷千早を見ていないと伝え、ホテル内や彼女の部屋を探すことを約束した。

「誰か下に行って確認してくれ」宴司は命じた。

「はい」スタッフはすぐに頷いた。

その時。

八尾麗奈が急かしに来た。「藤原社長、表彰式の時間です」

深谷千早が行方不明になったことなど、何の影響もないと思っているようだった。

宴司の表情が曇った。

鋭い視線に麗奈は胸がどきりとし、全身が鳥肌立った。

今の宴司は、まさに凍りつくような冷たさだった。

麗奈は黙り込んだ。

宴司は直接言った。「辛島社長、表彰式はあなたが行ってください。私は山を下りて様子を見てきます」

「しかし…」辛島和東は断ろうとした。

宴司はすでに背を向けて去っていた。

明石は当然、宴司の後に続いた。

麗奈は眉をひそめて彼らが急いで去る姿を見つめ、思わず尋ねた。「辛島社長、深谷社長と藤原社長はどういう関係なんですか?藤原社長があんなに彼女を心配するなんて」

「会社の団体旅行で、誰一人問題が起きれば、会社は責任を負うんだ!」辛島は冷たく言った。

麗奈は鼻っ柱を折られ、それ以上質問しなかった。

心の中ではむしろ災難を喜んでいた。

千早が本当に事故に遭えばいいと思っていた。

……