夜の闇の中。
藤原宴司の心臓の鼓動が徐々に速くなっていった。
彼は深谷千早をしっかりと抱きしめ、彼女に周囲の危険を気づかせないようにした。
彼女に気づかせなかった。彼らの周りに、一匹の蛇が、じっと彼らを見つめていることを。
彼もまた、突然周囲の気配に気づいたのだ。
あまりにも暗く、何も見えない。
しかし、かすかに影を通して、何かが周りで蠢いているのが見えた。
間違いない、蛇だ。
宴司は眉をきつく寄せた。
千早を抱く力が、無意識のうちに強くなっていた。
千早は宴司に抱かれて息もできないほどだった。
こいつ、そんなに寒がりなの?!
彼は寒がりには見えないのに。
やっぱり、見た目倒れだな。
千早も抵抗せず、宴司の腕の中で横になり、不思議と温かさを感じていた。
そして不思議と安心感も。
宴司の体が今、緊張していることにまったく気づいていなかった。
彼の額には冷や汗が浮かんでいた。
目の前にいる蛇と睨み合い、互いに警戒していた。
夜の静けさが恐ろしいほどだった。
千早は宴司の腕の中で、冷静に救助を待っていた。
もうすぐだろう。
この山はそれほど大きくない。
救助隊はすぐに到着するはずだ。
ただ暗いせいで、救助が難しくなっているだけだ。
千早はそう自分を慰めていた。
突然。
宴司の体が動いた。
千早が反応する前に、彼女の体は彼によって強く投げ出された。
「あっ!」
千早は驚いて叫んだ。
こいつ、何てんかんでも起こしたの?
振り返った彼女は怒りに燃えて、「宴司、あなた狂ったの…」
その瞬間、暗闇の中で宴司の黒い影が何かと格闘し、そして近くの石を掴んで、狂ったように地面に叩きつけるのが見えた。
千早は恐怖で震えた。
何が起きているのか全くわからなかった。
しかし彼女は宴司の狂ったような息遣いを聞いた。
力を使い果たしただけでなく、恐怖も含まれているようだった。
「宴司、どうしたの?」千早はすぐに尋ねた。
宴司は何も言わなかった。
「一体何があったの?」千早は近づいていった。
彼女は宴司の腕をつかみ、彼の過激な行動を止めようとした。
宴司は黙っていた。
自分を落ち着かせようと努力しているようだった。
さっき蛇が飛びかかってきた瞬間、彼も感じていた、心の中の極度の恐怖を。