深谷夕遅は一瞬固まり、白井香織の友好的な態度を明らかに感じ取った。
どうして?!
この女、彼女のことをすごく嫌っていたはずじゃないの?!
前回の藤原蘭ジュエリーのパーティーでは、彼女の面子を全く立てずに反論し、小林温子に目撃されて完全に恥をかかせたのに。
今では温子に会うだけで、自分に自信がないと感じるようになってしまった。
「あなたはデザイナーだって聞いたわ。もしかして私が先ほどつけていたジュエリーもあなたのデザイン?!本当に素敵だったわ」香織はさらに言った。
夕遅への積極的な好意表現は、もう顔に書いてあるようなものだった。
夕遅は困惑した。
突然理解した。
香織は彼女と木村冬真が付き合っていると思っているに違いない。そうなれば彼女は藤原宴司に執着することはなく、自分への脅威にはならないと。
ほら。
香織でさえこの道理を理解しているのに、千早はまだ分からないのだ。
宴司に捨てられた後、何も残らなかったのは当然だ!
「私はまだ入社したばかりで、ジュエリーはまだデザイン中です。もし順調に進めば、周年記念パーティーで見ていただけると思います」夕遅は香織の熱心さを感じ、あまり拒絶しなかった。
結局のところ、香織は宴司の憧れの人だ。今、彼女は藤原蘭ジュエリーで働いているのだから、できることなら香織と良い関係を築いた方がいい。
「あなたの作品、とても楽しみにしています」香織は心から言った。
「ありがとうございます」夕遅は頷き、少し友好的になった。
「先に失礼します」香織は言った。「また今度ゆっくりお話しましょう」
「はい」
香織はエレベーターに向かって歩いていった。
八尾麗奈はためらうことなく、香織と一緒に立ち去った。
彼女の香織へのゴマすりは、誰もが知るほど露骨だった。
隠すこともしなかった。
香織に自分の誠意を感じてもらいたかったのだ。
麗奈は香織のためにエレベーターのボタンを押し、香織も礼儀正しく笑いながら「ありがとう」と言った。
「どういたしまして」麗奈は急いで答え、さらにカジュアルに尋ねた。「白井さん、深谷夕遅さんとはご存知だったんですか?」
「彼女は冬真の彼女よ。冬真は私が今撮影しているドラマの監督で、彼女はよく撮影現場に来ていたの。そのうち知り合いになったわ」香織は言った。