「表兄は千早との結婚を公表させないために止めようとしていると思う?」木村冬真は小林温子に尋ねた。
「そうじゃなきゃ何?」温子は確信していた。
「やはりな」冬真は結論づけた。「立場が違えば、問題の見方も変わってくるものだ」
「何をブツブツ言ってるの?」温子は不思議そうだった。
「なんでもない」
冬真は考えていた、深谷千早もそう思っているのだろうか?
その時、舞台の上では。
藤原正陽が立ち上がり、マイクを手に取って言った。「申し訳ありません。藤原グループ創立60周年の記念式典でこのような事態が起きて、皆様に恥ずかしい思いをさせてしまいました。しかし、すでに起きてしまったことですので、公平かつ公正に全ての人に説明をしたいと思います」
会場から熱烈な拍手が起こった。
正陽は言った。「深谷千早と明石和祺、二人とも携帯を私によこしなさい」
二人はロックを解除して、正陽に携帯を渡した。
司会者が横で正陽のためにマイクを持っていた。
正陽は言った。「彼らのチャット履歴が削除されている可能性を避けるため、二台の携帯の内容を同時に照合します。その前に、当事者お二人の意見を直接伺いたいと思います」
彼は千早と和祺に向かって言った。「あなたたちの潔白を証明するために、私はあなたたちの携帯にあるすべてのチャットツールを確認します。WeChat、メッセージだけでなく、他のSNSアプリも一つ一つ確認します。しかし、これはあなたたちのプライバシーに関わることなので、拒否する権利もあります」
「構いません」千早は率直に答えた。
和祺も肯定的な返事をした。「私も大丈夫です」
正陽はこれ以上何も言わなかった。
彼は二人の携帯の中身を確認し始めた。
会場は静まり返り、全員が最終結果を待ち望んでいた。
正陽はまず二人のWeChatのチャット履歴を開いた。
一つ一つのメッセージを照合していった。
次に彼らのSMSの履歴を開き、同様に確認した。
さらに彼らのSNSの個人メッセージまで全て確認した。
しばらくして。
正陽は千早と和祺に携帯を返した。
明らかに、確認が完了したのだ。
会場の全員が正陽を見つめていた。
ほとんどの人には関係のないことなのに、なぜか皆が緊張していた。
八尾麗奈が最も顕著だった。