「もしあなたがそうしたいというなら」藤原宴司は白井香織を見つめた。「私にはどうすることもできない」
「だから私が死んでもいいというの?」香織は宴司に真っ直ぐ問いかけた。
「もし君が死なない代償が、私と深谷千早との離婚だというなら、確かに私には何もできない」
「これがあなたの言っていた、私の面倒を見るということ?これがあなたの約束した、私に責任を持つということ?」香織は大声で彼を問い詰め、感情が異常に高ぶっていた。
「香織、君の兄の頼みで君の面倒を見るのは情けだ。面倒を見ないのは当然のことだ」
「でも兄はあなたのために死んだのよ!あの時、兄がいなければ死んでいたのはあなただったはず」香織は激しく言い放った。
どうせここまで来たのだから、道徳的な縛りをかけてもいい。
宴司を自分の元に戻すためなら、どんな極端なことでもする覚悟があった。
宴司は香織を見つめた。
彼女の真っ赤になった目と、崩壊寸前の様子を見て。
彼はこれまで香織がこんな状態になるのを見たことがなかった。
しかし。
はっきりさせるべきことははっきりさせなければならない。
曖昧にしてはいけない。
宴司は冷たい声で言った。「香織、君の兄は私のボディーガードだった。私の身の安全を守るのは彼の職務だ」
香織は信じられない目で宴司を見つめた。
彼がここまで言い切るとは、本当に思わなかった。
彼女を居場所のないような気持ちにさせる言葉だった。
彼女は唇を強く噛みしめ、ゆっくりと自嘲気味に笑った。「私に責任を持つのは情けだけ……宴司、あなたは私に責任を持たなくていいのよ!」
宴司はしばし沈黙した。
彼は言った。「もし君が私との距離を置きたいなら、関係を切りたいなら、これからは二度と会わないようにすることもできる」
「宴司!」香織は思わず叫んだ。
宴司は冷たい目で見つめた。
香織の態度の崩れに、目に失望の色が浮かんだ。
これは彼の記憶にある従順な香織とは、まったく違っていた。
彼は香織が外見は柔らかいが内面は強い女性だと知っていた。そうでなければ、キャリアのために海外に行くこともなかっただろう。
しかし、彼は香織がここまで極端になるとは思っていなかった。