第57章 気絶_2

冷たい風が彼女の体に吹きつけた。

寒さに彼女は震えていた。

実際には真冬でもなく、おそらく風邪を引いていたのだろう。

彼女が車から降りると、その高級なロールスロイスは彼女の傍らから去っていった。

春野鈴音はぼんやりとした頭で歩道に向かい、タクシーを拾おうとした。

この時間帯はタクシーが少ない。

彼女は歩道に長い間立っていた。

彼女は自分に言い聞かせた、必ず耐えなければならないと。

すぐに家に着ける、すぐに……

まあ、いいか。

彼女は自分が思っていたほど強くなかったようだ。

立っているうちに、突然地面に倒れてしまった。

気を失う瞬間、彼女はまだ考えていた、ホームレスに見つからないでくれと……

……

鈴音が目を覚ますと、病院のベッドに横たわっていた。

手には点滴が刺さっていた。

誰か親切な人に助けられたのだろうか?

「目が覚めたか?」突然、耳元で低く馴染みのある声がした。

彼女が振り向くと、木村冬真が距離を置いて隣に座っているのが見えた。

冷たい目で彼女を見つめている。

彼の感情は全く読み取れなかった。

鈴音は冬真を見て少し驚いた。

彼が病院に連れてきてくれたのか?

でも彼はもう行ってしまったはずでは?

「医者の話では病気だとか?」冬真が尋ねた。

「ええ、はい」鈴音はうなずいた。

「40度の熱があるのに、よくそんなにお酒が飲めるな」冬真は皮肉を言った。

鈴音は唇を噛んだ。

心の中で思った、あなたが飲めと言ったんじゃないの?

彼女は全く飲みたくなかった。

「鈴音、かつてこんなに惨めな日が来るとは思わなかったか?」冬真は彼女に尋ねた。

かつての愚かさを皮肉っているのだ。

彼という大木にぶら下がって順風満帆に過ごせたはずなのに。

それなのにちょっとした利益のために彼を捨てた。

「あの時は、若くて分別がなかったんです」鈴音は淡々と言った。

「若くて分別がなかった?いい言い訳だな」冬真は冷ややかに言った。

鈴音は目を伏せた。

彼女は言った、「あの役、私にくれますか?」

冬真は笑った。

本当に冷たい笑いだった。

だから。

彼女のような人間には心がないのだ。

なぜ彼はまだ期待していたのだろう、彼女が後悔するなどと。

彼女が欲しいのは、目の前の利益だけだ。