深谷千早の声が聞こえた瞬間、深谷夕遅はすぐに気づいた。
彼女は藤原宴司と一緒に前列に座っていた。
実際、彼女は宴司と一緒に会場に来たわけではなく、トイレでの出来事は単に千早を怒らせるためだった。
しかし、千早にあっさりと見破られるとは思わなかった。
彼女がここに来たのはもちろん自分のチケットを使ったからで、それはチャームから贈られたものだった。
このチケットのために、彼女はチャームのアジア責任者と喧嘩しそうになった。
チャームは彼女に自発的にチケットを送ったわけではなく、彼女が自ら尋ねたのだが、相手は国際デザイン大賞の上位3名にしか送らないと返答した。
納得できなかった彼女は相手と長い間言い争った。
相手は彼女が蓮城の人間であり、チャームショーも蓮城で開催されること、そして最も重要なことに、チャームショーが1位の人と連絡が取れなかったことを考慮して、1位のチケットを彼女に譲った。
チケットを手に入れるのにこんなに苦労したことを思い出すと腹が立ち、チャームショーが1位に用意したチケットが最前列の中央席だと知ってさらに崩壊した!
たった数位の差なのに、なぜこんなに待遇が違うのか?!
もちろん、彼女はこんな恥ずかしい話を決して口にしない。
外部の人には、チャームが自発的に彼女にチケットを送り、1位の人も招待せず彼女だけを招待したと言い回っていた。
しかし、幸いなことに、このチケットは最終的に彼女に大きな驚きをもたらした。
彼女は宴司の隣に座ることになったのだ。
彼女がどれほど嬉しかったか、神のみぞ知る。
宴司の前で良い印象を残し、深く印象付けなければならない。
夕遅は密かに深呼吸し、声のトーンを調整して、宴司の耳元で不確かに尋ねた。「お姉さんが値段を呼んでいるの?」
千早はきっとお金がないはずだ。
彼女が買うなら、きっと宴司が支払うことになる。
でも彼女は宴司が千早のために買うとは思わなかった。
千早はただ適当に値段を呼んでいるだけだろう。
存在感をアピールしたいだけなのだ。
宴司の瞳が微かに動いた。
この瞬間、彼は千早も会場にいることに気づいた。
彼は最前列に座っていたため、後ろを見ることはなかった。
千早がどうやって来たのかも不思議に思った。
チャームショーの格式からすると、彼女は入場できないはずだ。