深谷千早は近距離から藤原宴司を見つめていた。
二人は目と目を合わせていた。
彼女は彼の心臓の鼓動を感じているような気がした。とても速い。
まさか本当に、彼女に惹かれているの?!
彼女は藤原宴司に対して最初ほど拒絶感はなくなっていた。そう、彼が赤井栄昌の件で見せた態度のおかげで、彼に対する敵意が薄れていたのだ。
でも、彼の言う「命の恩」があるからといって、自分の原則を捨てるわけにはいかない。
婚姻関係にありながら浮気するのは、クズはクズ。
それは洗い流せない。
千早は両手を伸ばした。
白い腕が、今彼女が着ている黒い透けるレースのナイトドレスの上で、言葉にできないほどの誘惑を放っていた。
宴司は思わず拳を握りしめた。
最近の千早は彼を挑発するのが好きなようだった……
千早は両手を宴司の胸に当てた。「触らないで」
彼女はそう言った。声はとても小さかった。
大きな声で言う勇気もなかった。宴司を怒らせるのが怖かったのだ。
彼女は今の宴司の危険な雰囲気を明らかに感じていた。
次回は死んでも彼をわざと挑発したりしないだろう。
宴司は唇を引き締めた。
美しい唇が一直線になっていた。
必死に自制しているようだった。
千早は自分が言った「触らないで」という言葉がどれほどの破壊力を持っていたのか知らなかった。
それは今にも爆発しそうな男性にとって、まるで号令のようなものだった。その号令一つで、抑圧された千軍万馬が一気に解き放たれ、手に負えなくなるのだ。
でも彼も知っていた。
千早の「触らないで」は本当に彼に触れられたくないという意味だということを。
誘惑しているわけではない……
彼ののどぼとけが上下に動いた。激しく動いた。
千早も彼ののどぼとけの動きを見ていた。
男性ホルモンの香りを放っていた。
千早は今夜本当に彼を押しのけることができるのか少し疑問に思い始めていた……
次の瞬間。
宴司は突然千早の上から離れた。
体の熱が消え、突然冷水を浴びせられたような感覚だった。
彼女は手を伸ばしかけた。
指先が彼の服の端に触れた。
結局、彼を引き留めることはしなかった。
美しさに誘惑されてはいけない……