「あなた、今が旬の時期なのに、パパラッチに撮られるのが怖くないの?」小林温子は車に乗るなり、興奮した様子で尋ねた。
「パパラッチに撮られない場所を探せばいい」
「どこ?」
「あなたに聞いているんだけど」深谷千早は笑った。
温子は一瞬固まった。
「あなた、何年もナイトクラブに通ってるのに、まだ詳しくないの?」千早は冗談めかして言った。
「ちょっと待って、電話するから」
冗談じゃない。
彼女はナイトクラブのプリンセスなのだ。
何も知らないわけがない。
彼女は素早く電話をかけ終えると、言った。「蓮城で最高級のナイトクラブ、夜宴クラブよ。パパラッチどころか、ハエも入れないくらいの場所」
「道案内して」
「ナビでいいんじゃない?」
「行ったことないの?」千早は驚いた様子で聞いた。
「行ったことはあるわ、だいぶ前だけど。でもあそこは面白くないの。プログラムも少ないし、盛り上がらない」温子は言った。「高級なマダムたちが行くような場所で、プライバシーが守られるから。私はもっと庶民的な、人でごった返すような場所の方が合ってるの」
千早はナビを設定し、目的地へ向かった。
「ところで、今日はどうしてお酒を飲もうと思ったの?本当に大丈夫?」温子は千早をじっと見つめた。
「さっき深谷家に行ってきたの」
「深谷家の人たちがまた意地悪したの?!」温子は義憤に駆られた様子だった。
「ううん、今の私は昔みたいに、ただ言いなりになるだけじゃないから」
「それはそうね」温子はうなずいた。「今や深谷家はあなたにとって何の価値もないわ。親族だからとか血のつながりがあるからって、彼らに優しくしちゃダメよ。深谷家の人たちはあなたの共感に値しないわ」
「安心して、そんな聖人君子じゃないから。深谷家の人たちが私にしたことは、はっきり覚えているわ」
「じゃあ今日戻ったのは何のため?」
「夕遅と決着をつけるため」
「一人で行ったの?」温子は少し興奮した様子で言った。「どうして私を呼んでくれなかったの?深谷家の人たちがあなたを困らせたら、私が助けられたのに。最悪の場合は、私の両親を呼ぶこともできたのに」
「大丈夫、とてもスムーズだったわ。夕遅は深谷おじいさんに三十回も鞭打たれて、今はベッドで動けないの」