1000万円で自分を売った

「榎本主任、どうしてこんなにお金がかかるんですか？！私、今すぐにはこんなにたくさんのお金を用意できません。何とか融通を利かせていただけないでしょうか。先に専門医に母の手術をしてもらって、必ず工面しますから。榎本主任、お願いします！」

今田由紀は唇を強く噛みしめ、潤んだ瞳で目の前の榎本主任をじっと見つめていた。榎本主任も彼女が気の毒だということはわかっていたが、病院には規則があり、一人のために規則を破ることはできなかった。

榎本主任は彼女の家庭状況も知っていた。今田由紀はまだ20歳の学生で、経済的な基盤など全くなく、家族も彼女以外には誰もいないようで、同情に値する状況だった。

「今田お嬢様、ここは病院です。規則がありますから。私はただの医者で、あなたを助ける方法がないんです。早くお金を工面してください。今回、専門医が当院に来てくれるのは非常に貴重な機会です。もしこの機会を逃せば、お母様の病状は…」

今田由紀は目を伏せ、医師の言葉を聞きながら、心の中でさらに不安が募った。お母さんに何かあってはならない、絶対に何かあってはならないのだ。

彼女にはお母さんしか身寄りがないのだから！

「わかりました榎本主任、では帰ります！」

「はい、どうぞ」

医師のオフィスを出ると、今田由紀の体はまるで力が抜けたようだった。700万円、どこからそんなお金を工面すればいいのだろう！

もしお金がなければ、お母さんは二度と目を覚まさず、彼女はもうお母さんを失ってしまう。

彼女は冷たい壁に体を預け、思わず滑り落ちて床に座り込み、膝を抱えて頭を深く埋めた。

病院の廊下で、男女が会話をしながら、ちょうど今田由紀の横を通りかかった。

女性は軽蔑したように言った。「何よ！私をどんな人間だと思ってるの？中村智也、頭おかしいんじゃない？あんな男が私に釣り合うわけないでしょ？私を一体何だと思ってるの、わざと私を台無しにしようとしてるの？」

中村智也はにやにや笑いながら言った。「本当に嫌なの？彼と結婚するだけで、お金の面では…」

「くだらない！見ればわかるでしょ、お金？あの人にどんなお金があるっていうの。あんなにダサい服装で、全身ブランド品一つもなくて、全部合わせても6000円もしないんじゃない？あんな人が私にお金の話？さっさと行きましょう、忙しいのよ、あなたと時間を無駄にしてる暇なんてないわ！」

梅看護師は智也を怒って睨みつけると、踵を返して歩き去った。

彼女の姿が完全に見えなくなると、中村智也は横で床に座っている今田由紀に目をやり、大声で言った。「まったく、今時、お金をあげようとしても断るなんて、結婚するって約束するだけで、すぐに1000万円の小切手がもらえるって言ったのに！」

今田由紀は彼らの前の会話は聞き取れなかったが、最後の一言で目が覚めた。彼女は顔を上げ、泣きはらした赤く腫れた目で哀れっぽく智也を見つめた。「あの、今なんておっしゃいました？結婚？1000万円？！聞き間違いじゃないですよね？」

中村智也はここにまだ人がいることに気づいたふりをして、驚いたように言った。「あれ？小さなお嬢さんがここに座ってたの？結構可愛いじゃないか。そう、今の聞き間違いじゃないよ。すぐに婚姻届を出せば1000万円の小切手がもらえるんだ。どう？興味ある？」

1000万円と聞いて、今田由紀は完全に我に返り、目を輝かせて中村智也を見つめ、緊張した様子で小声で尋ねた。「あの、私でも大丈夫ですか？！」

「もちろん、君は先ほどの女性よりずっと可愛いよ。ところで、成人してる？これは…」

今田由紀は相手が自分を断るのを恐れるかのように、間抜けな様子で言った。「成人してます、もう20歳です。もし私でよければ、今すぐあなたについて区役所に行きます。いつ1000万円をいただけますか、私…」

彼女は本当に急いでお金が必要で、お母さんを救いたかったのだ！