第129章 なぜ彼はここで義姉を見たのか

隣に座っていた女性が眉を上げて今田由紀を横目で睨みつけ、目に毒々しい光を宿して、腹立たしげに立ち上がった。「古社長、ひどいわ。もう私のこと好きじゃないの?!」

「いい子だから、席を譲ってくれないか。あの小さなお嬢さんに来てもらって一杯飲みたいんだ!」

古社長の一言で、部屋にいる全員の視線が今田由紀に集中した。由紀はぼんやりと渡辺美紀が自分の方を振り向いたのを見て、驚いて慌てて頭を下げた。心の中で「まずい、バレたのかも?!」と思った。

「おや、古社長の目は確かだね。確かに水々しい娘だ。さすが古社長の目に留まるわけだ!」

話したのは渡辺直樹で、この幻夢エンターテイメントのオーナーだった。彼が自分の後ろに隠れている由紀を前に招こうとした時、向かい側で中村智也の箸がぱたりと床に落ちる音が聞こえた。

「智也、どうしたんだ?箸まで食べちゃうほど空腹だったのか!」直樹は笑いながら尋ねた。隣に座っていた森信弘、美紀、そして先ほど話していた古社長も智也に向かって微笑んだ。

智也は口を大きく開け、驚きのあまり口が閉じられないほどだった。鋭い目で頭を下げている由紀をじろじろと見て、自分は酔っ払っているに違いないと再び疑った!

なぜここで義姉を見かけるんだ?!

義姉は今頃家で兄の帰りを待っているはずじゃないのか。まさか兄がエンターテイメント施設にいることを知って、今夜浮気現場を押さえに来たのか?!

智也は目を丸くして隣の席に視線を走らせ、兄の佐藤お坊ちゃんの顔色が暗く沈み、車椅子の肘掛けを握る手が力を入れすぎて関節が白くなり、ぎしぎしと音を立てているのに気づいた。

やばい!

これはどういう状況だ?!

智也は泣きたい気持ちで、自分勝手に聡明ぶっている直樹に向かってじろじろと目配せした。直樹、お前このバカ野郎、女子学生を探してこい、清純なタイプをって言ったのに、よくもまあ義姉まで連れてきたな!

佐藤兄さんにぶっ飛ばされるのを覚悟しろよ!

お前、まだこの好色な古社長に義姉を接待させる気か?

智也はもう見ていられなかった。これ以上見ていたら心臓が持たない。彼は直樹を睨みつけ、スリットの入ったチャイナドレスを着た義姉を人前に出さないようにと合図した。兄がどれだけ怒っているか見えないのか?!