中村智也は当然、今田由紀の視線に応えた。彼のこの異常な行動に、渡辺直樹はすぐに理解した。
おそらく古社長が気に入ったこの女の子を、智也も好きなんだろう!
これはどういうことだ?以前なら、智也が幻夢の女の子を気に入ったどころか、一ダースの女の子を連れて帰っても許したはずだ。
しかし今日はダメだ。今日は佐藤兄さんと古社長の商談に付き添いに来ているのだから。
この古社長は佐藤兄さんほどの権力はないが、彼の弟が疋田市の新しいトップに就任したばかりだ。彼と良好な関係を築けば、将来の協力にとても有利になる。
「智也、ふざけるな、酔っ払ってるんだろ。さっきから少なめに飲めって言ったのに聞かないし。古社長、青木の若様は酔っ払って戯言を言ってるんですよ!」
直樹はフロアマネージャーに合図を送り、由紀を外に出すよう促した。
由紀は智也を見た瞬間、頭が混乱した。どういうことだ?
なぜここで青木さんに会うことになったのか?
青木さんは陸兄さんの親友で、陸兄さんは今夜は遅くなると言っていた。接待があるからと。
まさかこんな偶然が!!!!!
由紀は智也の視線の先を見ると、案の定、車椅子に座り黒いサングラスをかけた佐藤陸がいた!!
由紀は泣きたい気分だった!
何という運命だろう、どうしてこんなに偶然陸兄さんと鉢合わせてしまったのか?!
もし陸兄さんに今日彼女が娯楽施設に来ていて、しかもこんな格好をしていることを知られたら、彼女は……
普段は陸が彼女を甘やかしているとはいえ、どんな男も妻が深夜にこんな場所をうろつくのを好むだろうか!
これは全て彼女の頼りにならない同僚のせいだ。彼女を台無しにした。
正体がバレる前に急いで逃げ出そうと思った。渡辺美紀の独占情報なんてもういい。彼女が振り返ろうとした瞬間、フロアマネージャーが彼女の細い腰を押して前に進ませた。
「ちょっと、私……」由紀は緊張して叫びそうになったが、声が陸に聞こえるのが怖くて、必死に声を抑えた。
彼女は心の中で思った。陸兄さんは彼女が見えない、見えない、だから声を出さなければ、料理を置いて安全に出て行けば、ここに来たことなど無かったことにできる。
智也については、後で頼み込めばいいだけだ。