「陸兄さん、どうして榎本のお母さんが戻ってきたって教えてくれなかったの?もう最悪だよ、さっき私……」
今田由紀は、さっき半分寝ぼけていた時に、佐藤陸だと思って甘えた声で呼びかけた恥ずかしい言葉を思い出し、穴があったら入りたいと思った。
電話の向こうで陸は思わず笑った。満足げな笑い声だった。「榎本のお母さんは今朝帰ってきたんだよ。その時、可愛い子はまだ寝てたから、どうやって伝えられたかな?何かあったの?」
「え?ううん……何でもないよ、ちょっと驚いただけだから電話したの!」
「僕、すごくショックだよ。可愛い子が目を覚まして僕に会いたくなって電話してくれたのかと思ったのに、陸兄さんに会いたくなったわけじゃないの?」
「そんなこと言わないでよ、全部あなたのせいじゃない。昨夜あんなに激しくしたから、今全身が痛くて辛いの。ベッドから出られないし、榎本のお母さんも戻ってきたし、私この状態で……」
由紀は陸に向かって叫んだ。
「昨夜は確か……優しくしたはずなんだけどな。どうして……全部可愛い子が誘惑上手だからだよ!」
「陸兄さん、もう最悪!知らない!切るね、お腹空いたから何か食べに行くし、あなたもお仕事頑張ってね、じゃあね!」
由紀は顔を赤らめながら電話を切ろうとした。
「可愛い子、キスして?」
「え?!」
「細田から聞いたんだけど、彼の彼女は毎回電話を切る前に必ずキスするんだって!」佐藤お坊ちゃんは憧れるように諭すように言った。
「細田さんの彼女、すごくオープンなんですね!だから細田さんはあんなに恥ずかしがり屋なのね……」
「そうだね、次郎はすごく幸せだよね!」陸はため息をつき、その声には羨望と嫉妬が込められていた。
由紀は説得されてしまい、頭の中で陸が落胆している姿が一瞬浮かんだ。
彼女はこれからどれだけ長く陸兄さんのそばにいられるか分からなかった。もし高橋美奈の件を解決する方法が見つからなければ、陸兄さんを傷つけないために、いずれ彼から離れることになるだろう。
今、二人が一緒にいられる時間は多くない。彼女はできる限り陸の全ての要望を満たしてあげたいと思った。
「ちゅっちゅ〜〜陸兄さん、これでいい?」
陸は彼女をからかうつもりだったが、由紀が本当に電話越しにキスをしてくれるとは思っていなかった。
「可愛い子……」