第102章 ファン名は「喜阳阳」と呼ぶ

10分後、初陽は簡単な防水メイクを施し、ちょうど片付け終わったところで、石川桐人がメイクルームのドアを開け、両手をポケットに入れて余裕の表情で入ってきた。

彼は細長い目を細め、初陽を見つめ、その瞳の奥には驚嘆の光が輝いていた。

「本当に美しい。演技する必要もないだろう。沢田湊人の沢田蛍への執着を完全に表現できそうだ」彼は口元に笑みを浮かべ、冗談めかして言った。

初陽は堂々と立ち上がり、彼に頷いて挨拶した。

「石川先生、お褒めいただきありがとうございます。新人の私をどうぞよろしくお願いします…」

桐人は彼女よりも早くデビューし、早く名を馳せ、多くの名作映画に出演していた。この「石川先生」という呼び方には、彼への敬意が込められていた。

彼女は心から演技が好きだったので、心から桐人に教えを請いたいと思っていた。

この謙虚な「石川先生」という呼びかけに、桐人は一瞬驚いた。

すぐに大笑いし、目尻や眉の隅々まで笑みに包まれた。

「ハハハ…あなただけの『石川先生』になれて光栄だよ。正直、こんな風に呼ばれたことはないんだ」

初陽も口元を緩め微笑み、その後二人は台本を手に取り、セリフの確認を始めた。

談笑するうちに、距離感も徐々に縮まっていった。

お互いの隔たりを取り除いてこそ、わだかまりなく演技に入ることができる。

今日は最初のシーンの撮影だった。

高校一年生の沢田蛍が入学し、高校二年生の先輩で生徒会長の沢田湊人が、新入生の案内役を務める。

新入生の案内中、湊人は一目で蛍を見て、すっかり彼女に夢中になる。

登録手続き、荷物運びの手伝い、女子寮への案内。

一連のシーンで、二人の息はぴったりと合っていた。

視線の交わし方、あるいは湊人の蛍への執着心など、すべてが桐人によって見事に表現されていた。

雪村監督はモニターの前で、「いいぞ」「素晴らしい」「その目線がとても良い」「最高だ」と絶え間なく叫んでいた。

カットがかかるとすぐに、優奈が駆け寄り、初陽にダウンジャケットを羽織らせた。

「初陽さん、あなたは私の憧れ、女神様です。完全にあなたの熱狂的ファンになりました。ダメだ、ウェイボーでファンアカウントを作らなきゃ。ファンの名前は『陽ラバー』にしよう!」

初陽は眉をひそめ、苦笑いしながら、優奈が本当にスマホを取り出して作業を始めるのを見つめた。