まさか、彼女が色気を武器に、本当に彼に色仕掛けして、彼を誘惑するわけにはいかないでしょう?
彼女は確かに有名になりたいし、元年のヒロイン役を手に入れたいけど、それでも底なしというわけではない。
初陽が思いを巡らせている間、黒川源は彼女の表情の変化を悠々と眺め、満面の笑みを浮かべていた。
「美女、何を考えているの?もしかして、さっきのぶつかりを利用して、僕に色仕掛けして、新しい火花を散らそうとしてる?」
初陽は悔しげに歯ぎしりした。こいつ、二言目には色仕掛けだ。新しい火花だって?
彼の頭上には既に緑の森が生い茂っているというのに、彼の彼女は今頃他の男と情熱的に火花を散らしているというのに。
こいつときたら、ここで平然と他の女と戯れている。
浮気されて当然だ。まさに因果応報というべきだろう。
「はぁ...紳士なんて言葉とはまったく無縁ね。女性にぶつかっても謝らないどころか、セクハラ発言までするなんて?ふーん...噂は信じられないって言うけど、目の前で見ると本当だったわね...」彼女は背筋を伸ばし、あからさまに舌打ちした。
一瞬で普通の女性に戻った彼女を見て、その一挙一動の中に漂う色気に、男の眼差しは次第に深くなっていった。
美女なら数多く見てきたが、ほとんどが自分から色仕掛けしてくるタイプだった。さっきの発言も、ただこの女性を試そうとしただけだ。
拒絶するふりをして実は誘っているという手口は、他の女性たちからも散々見てきた。
今、彼女の表情が次第に冷たくなるのを見て、源は思わず眉を上げた。
「ふん...この美女さん、白黒をひっくり返すのが上手いね。君が僕にぶつかったんじゃなかった?僕は体格がいいとはいえ、君にぶつかられて内傷を負ったよ。大目に見てあげて、親切に手を貸してあげたのに、お礼も言わないどころか、セクハラしたと言いがかりをつける?最後には紳士の問題まで持ち出す?僕の紳士的態度は教養があり、礼儀正しい女性に対してのものだ。君は?」
彼は言葉を切り、彼女を上から下まで眺めてから、静かに続けた。「教養に欠け、礼儀も悪い、淑女の範疇には入らないね。君が淑女でないなら、なぜ僕が紳士的に接する必要がある?」
初陽は怒りで震え、歯を食いしばって彼を睨みつけた。