……
角を曲がった時、彼女はまったく予想していなかった。突然、一人の人が歩み出てくるとは。
頭が強くその人の体にぶつかった。まるで鉄壁のように硬く、固かった。
瞬時に、彼女の頭はぐるぐると鳴り響いた。
目の前がぼやけ、足元がふらつき、今にも硬い大理石の床に強く倒れそうになった。
突然、長い腕が神のように現れ、彼女の手首をつかみ、一気に引き上げると、彼女はその人の腕の中に落ちた。
「あ……痛い、くそっ、あなたの胸は鉄でできてるの?これで二回もぶつかって、絶対脳震盪起こしてる……」初陽はその人を見もせず、低く罵り、ひどく腹を立てていた。
低い笑い声が聞こえてきた。それは少し意地悪さを含んでいた。
初陽は歯を食いしばり、力いっぱい彼を押しのけ、一歩後ろに下がって体勢を整えた。
恨めしげに顔を上げて見ると、目が止まった。
男の容姿は端正で、五官はまるで刀で削ったように精緻だった。
二重の瞳は艶やかで、秋の深い池のように奥深かった。
温和で玉のようでありながら、気づきにくいほどのわずかな冷たさと、少しばかり見通せない深遠さを帯びていた。
しかし、この人の出現は、初陽の息を詰まらせた。
黒川源、なぜ彼がここにいるの?
この角は、宴会場へ通じる場所であり、非常口へ通じる場所でもあった。もう一方の廊下の先はトイレだった。
だから、この男は東雲敏と松田耘を発見していないはずだ。彼はただトイレに行きたかっただけだろう。
非常口とトイレは反対方向にある。彼は気づかないはずだ。
録音ペンはまだ非常ドアの後ろに置いてある。彼女の手の中の切り札はまだ握れていない。彼女は功を焦って台無しにするわけにはいかない。事前に源に真実を知られるわけにはいかない。
当面の急務として、彼女はなんとか理由をつけてこの男をその場から離さなければならなかった。
「あなた、目が見えないの?角を曲がる時に、誰か来ないか注意しないの?こんな大きな男が人にぶつかっておいて、謝るどころか、まだ人の不幸を喜んで笑うなんて」初陽は痛む額を擦りながら、顔を青白くして怒った。
男は思わず口角をさらに上げ、探るように彼女の額を見つめた。
白くて柔らかい額は、すでに真っ赤に腫れていた。