第57章 忌々しい女

「お譲りします。黒川さんがほかに用事がなければ、先にお帰りください。私の言ったことをよく考えてください。元年の女優主役は絶対に手に入れますから……」

ずっと張り詰めていた糸が、ここで切れた。

頭が爆発しそうなほど痛く、彼女は自分がどうやって耐えて、黒川源と交渉に集中できたのか分からなかった。

一度気を緩めると、体の病的な反応が波のように押し寄せてきた。

「くっ……痛い……」彼女は小さく叫び、片手で額を押さえた。

源は疑わしげに彼女を見つめ、少し青白くなった頬に目を凝らし、思わず低く叱った。「葉田初陽、またどんな芝居を打つつもりだ？」

目の前がくらくらし、体の中で火が燃えているようで、彼女は火に焼かれるような苦しさを感じていた。

「苦しい……」彼女は小さくつぶやいた。

源の瞳に疑問が浮かび、手を伸ばして彼女の滑らかな額に触れると、そこは灼けるように熱かった。

彼の手のひらが少し震え、すぐに身を屈めて彼女を抱き上げた。

「くそっ、なぜ熱で死なないんだ？病気なのに、まだ俺と値段交渉する元気があるなんて、お前は本当に女か？」

どんな女がこんなに命知らずなのか。病気になっても薬も飲まず病院にも行かず、病気の体を引きずりながら、まるで何でもないかのように、彼と交渉して物を交換しようとする。

心の底から憤りを感じ、この女を絞め殺したいほど憎らしく思った。しかし、顔色の悪い、小さな声で痛みを訴える女性を見下ろすと、彼の心は不思議と柔らかくなり、さらには少し酸っぱい感覚さえ覚えた。

自分はいったいどうしたのだろう？たった三回しか会ったことのないこの女のために、こんなに簡単に心を動かされるなんて。

東雲敏が彼を裏切り欺いたと知ったとき、彼は欺かれ、侮辱された怒りを感じただけで、他には何の感情も抱かなかった。

それなのに、腕の中の女性に対しては、少し緊張と焦りを感じているのか？

頭を振って、彼はそんな馬鹿げた考えを捨てた。結局は一つの命だ、無関心でいられるはずがない。

どんな女性であっても、彼はこのような反応をするはずだ。

そう、きっとそうに違いない。

……

車の窓を下げると、源の走り去ったスポーツカーはもう視界から消えていた。星野寒はハンドルを握る手をだんだんと強く締め付けた。

車を始動させ、後を追った。