薄暗い並木道で、ぴしっとしたスーツに長いコートを羽織った端正な顔立ちの男が、余裕のある姿勢で、口元に笑みを浮かべながら、一歩一歩彼女に向かって歩いてきた。
男の後ろには、秘書がついていた。先ほど話していたのは、この秘書だった。
男が徐々に近づくにつれ、松田靖はようやくその顔立ちをはっきりと見ることができた。
はっきりとした顔の輪郭が目に映った瞬間、靖の体は激しく震え始め、彼女は一歩一歩後ずさった。
「星、星野社長……」
星野寒のぼんやりとした輪郭が、徐々にはっきりしてきた。彼は口元に笑みを浮かべていたが、その目には底知れない冷たい光が宿っていた。
彼はまるで殺気を帯びてやってきたかのようで、まるで情け容赦のない残酷な修羅のよう、人の生死を決める閻魔のようだった。
この瞬間、恐怖と絶望が波のように靖の心を襲い、彼女の心は止まらずに沈んでいった。
「星野社長……どうしてここに?」
寒は物憂げに彼女を一瞥し、一言も発せずに彼女の前を通り過ぎた。その眼差しはまるで死人を見るかのように冷たかった。
「広田、彼女がどちらの手で初陽を殴ったか、その手を潰せ。それから、明日までに長谷川企業の破産を見届けろ……あと、用事が済んだら薬を一箱買って持ってこい……」
「はい、社長」広田崇は恭しく応じ、足を止めて寒が自分の視界から消えるのを見つめた。
夜の静寂の中、革靴のカツカツという遠ざかる音は、まるで命を奪う符のように、少しずつ靖の理性を奪っていった。
「いえ……いえ……星野社長、お願いです、私をお許しください、長谷川企業をお許しください」ドンという音とともに、靖は頭がくらくらするほどの衝撃を受け、数秒間呆然としていた。彼女は突然ひざまずき、寒がいる方向に向かって頭を打ちつけ、ヒステリックに叫びながら懇願した。
しかし、その頭を打ちつける音、彼女のヒステリックで絶望的な叫びも、寒の去っていく足音を止めることはできなかった。
崇は静かにその場に立ち、靖が狂ったように頭を打ちつけ続けるのを見つめていた。彼女の額から血が滴り、ぽたぽたと地面に落ちていった。
薄暗い灯りの下、彼にはただ湿った地面が見えるだけで、その液体の色を見分けることはできなかった。
まるで今の彼の心のように、冷たく、静かで、血の匂いすら感じなかった。