第62章 噂は信じられない

「村田城、お前よくも俺を蹴るなんて、このガキを懲らしめてやる」

ヒステリックな怒号の後、二人の大男が病室の入り口で喧嘩を始めた。

初陽は興味津々で、くすくす笑いながらベッドサイドテーブルに置かれた洗ったリンゴを手に取り、パリパリと噛みながら、細めた目で面白そうに見物し、時々声を上げて盛り上げた。

「城弟頑張って、わぁ、そのアクション本当にカッコいい、超マンだわ！」

拳と足が飛び交い、兄弟二人が絡み合って戦っていると、廊下中の患者や看護師、医師たちが騒ぎに気づいた。

二人の身分を考慮して、誰も仲裁に入る勇気がなかった。

最後には院長までもが駆けつけ、ハアハアと息を切らしながら村田城に向かって怒鳴った。

「村田、お前は主任医師だぞ、身分をわきまえろ。この件を老院長のところまで持ち込みたくなければ、すぐに手を引け。病院内での喧嘩だぞ、病院の評判に関わる。処分を恐れないなら続けるがいい…」

火薬の匂いがする喧嘩は、これで終わった。

黒川源は不機嫌な顔で初陽を睨みつけ、「俺の電話を待っていろ」と一言残し、コートを払いのけて怒り顔で立ち去った。

初陽は『元年』のヒロイン役が自分のものになったことを確信した。

……

二日後、まだ病院で療養中の彼女は可美からの電話を受けた。

『元年』の監督が初陽をヒロイン役に指名し、可美との協力契約もすぐに締結された。

『元年』の発表会は三日後に開催され、初陽は必ず出席しなければならない。

これで『元年』のヒロイン役は彼女の手中に収まった。

……

三日後、『元年』発表会の会場。

人々の声が轟き、ステージの上下でフラッシュが次々と光り、カメラのシャッター音が絶え間なく響いていた。

ステージ上には主要スタッフが並び、下には報道陣やカメラマンが集まり、約1億円の投資を誇る『元年』の発表会を一目見ようと競い合っていた。

『元年』は江戸時代末期を背景にした物語で、主人公の神代旻とヒロインの小路流年が江戸時代の崩壊や戦争などの困難を乗り越え、数十年の歳月をかけて共に財産王国を築き上げるストーリーだ。

主人公と女主人公は幼い頃から婚約が決められており、大人になってからは家族の利益のために結婚する。

最初この結婚に対して、二人はお互いに拒絶し、憎しみ合っていた。