第65章 早く出て行け

林奈は油断できず、急いで駆け寄り、威勢よく追い払った。

「私の東雲姉さんの言葉、聞こえなかった？さっさと出て行きなさい。もし姉さんを怒らせたら、ただじゃ済まないわよ……」

可美は顔を強張らせ、素早く利害を考えた。

初陽は芸能界に入ったばかりで、人を敵に回すのは良くない。しかも噂によると、この東雲敏は黒川源の恋人で、黒川はこのドラマの最大出資者だ。この人を敵に回すわけにはいかない。

初陽がどうやって女主役を手に入れたのかは分からないが、敏とは敵対しない方が良さそうだ。

少し考えた後、この険悪な雰囲気を和らげようと思った。問題は、彼女たちは一言も発していないのに、相手がこんな高圧的な態度を取っていることだ。

彼女は微笑み、一歩前に出て、礼儀正しく対応した。

「あの……東雲さん、どうかお怒りにならないでください。私たちも『元年』の出演者です。これからずっと一緒に仕事をするわけですから、同じ場所でメイクをして、お互いの仲を深め、理解し合えたらと思います」

敏は10センチのハイヒールを履いて、ゆっくりと入ってきた。

自分より頭一つ分ほど低い可美を見て、嘲笑した。

「はっ……自分の立場も分からないで、私と友達になって仲良くしたいだって？信じる？私の一言で、あなたたちをすぐに追い出すことだってできるのよ……」

「あの……東雲さん、私たちはあなたに何も失礼なことはしていません。どうか大人の対応をしていただいて、私たちのことを気にしないでいただければ……」可美は礼儀正しい笑顔を保ちながら、互いの火薬の匂いを和らげようとした。

しかし、敏は彼女たちを許す気はなかった。

女主役から女三番手に降格され、この数日間、敏はずっと怒りを抑えていた。

黒川源に電話しても出ず、会社に行っても警備員に止められ、中に入ることすらできない。彼に会うことなど論外だ。

さっき受付で、黒川が彼女との関係を完全に否定するのを聞いて、心の中の怒りはさらに大きくなった。

元々「元年」というドラマは、彼女が黒川に頼んで製作してもらったものなのに、理由もなく女主役を交代させられ、しかもあの男は彼女を避けている？

どこで間違ったのか、自分が何を間違えたのか分からない。

今や、18線の小さな芸能人までもが彼女に反抗し、同じメイクルームにいようとしている？