彼の嬉しそうな声を聞いて、初陽は胸が痛くなった。こんなにボロボロの姿なのに、どうして笑えるのだろう?
この男は、本当に不思議で仕方がない。
初陽が知るはずもなかったが、星野寒が嬉しかったのは彼女の心配する問いかけのせいだった。
彼が嬉しかったのは、彼女の態度がもう冷たくなく、千里の彼方に拒絶されることもなくなったからだ。
空気は、また冷え込んでいった。
寒の心の奥がかすかに震え、小さく咳をして、手のひらを薄い唇に当て、目を細めながら初陽を見つめた。
道中ずっと、彼は瞬きもせず、初陽をじっと見つめ続けていた。
最初、初陽は異変に気づかなかったが、やがて彼の熱い視線が彼女に注がれ続けると、少し落ち着かなくなってきた。
彼女の手のひらに、徐々に汗が滲み出し、無意識のうちに唇を噛んだ。
次の瞬間、彼女の手のひらにまた何かが押し込まれた。
彼女の瞳に驚きが走り、下を向いて見ると、思わず苦笑いした。
寒はまた彼女に牛乳を一本渡したのだ。しかもストローまで刺してあった。
そして男の腕が、彼女の腕を軽く触れた。
「飲みなよ、喉を潤すといい。一本じゃ足りなかったら、車の中にまだ何箱も用意してあるから」
初陽は硬く口角を引きつらせ、少し躊躇いながら手を上げた。
まだ口元に運ぶ前に、男の声がまた聞こえてきた。「早く飲んで、冷めちゃうから…」
冷める?彼に言われて初めて、初陽は手のひらの牛乳が確かに温かいことに気づいた。
初陽の心臓が、制御できないほど速く鼓動し、目が潤んできた。
胸も突然締め付けられるように痛み、歯で唇を強く噛んだ。
できるだけ自分の感情を、平静に見せようとした。
黙って頭を下げ、この温度の良い牛乳を飲んだ。
温かい液体が喉から彼女の体内にゆっくりと流れ込むと、その温もりが徐々に彼女の心の冷たさを追い払っていった。
車窓の外の空は、徐々に朝焼けの光が現れ始めていた。
初陽は目を細めて車窓の外の景色を眺め、ぼんやりと物思いにふけっていた。
突然、寒の声が、再び横からゆっくりと響いた。
「今は特殊な状況だ。君を誘拐しようとする者がいる。君の住まいにはしばらく戻れない。この期間、私のところに来ないか…」
初陽は一瞬固まり、手をゆっくりと握りしめた。