「このトロフィーは、私のものであり、そして私を支えてくれたすべてのファンのものです。心を込めて大切に保管します」
木村凪咲はふわりとピンク色の唇をほころばせ、仮面をそっと整えてから、深々とお辞儀をし、トロフィーを胸に抱きながらステージを後にした。そして静かに客席へと戻っていった。
「ふん……あなたのもの?」木村伊夜は冷笑した。
街頭スクリーンに映る再放送を見つめながら、彼女の美しい瞳には皮肉めいた冷たさが宿っていた。
なるほど、すでにこの時点で……
「親愛なる」姉である凪咲は、彼女の歌姫の座を狙っていたのだ。しかも彼女になりすますことで、何度も成功していた!
「リンリン——」
そのとき、突然携帯の着信音が鳴り響いた。
伊夜は携帯を取り出し、画面に映った名前に目を落とす。そこには、彼女が最も憎んでいる人物の名前が浮かんでいた。
「星夏、どこに行っちゃったのよ?」凪咲の甘い声には、妙な作り物めいた焦りがにじんでいた。「もう、心配で心配で……」
伊夜はふっと微笑む。「そう?」
彼女は拳を強く握りしめ、全身から冷たい雰囲気を漂わせていた。
彼女の声の調子がどこかおかしいと感じたのか、凪咲は一瞬言葉に詰まる。「もちろんよ!私はあなたの一番の姉なんだから、心配しないわけがないでしょう?」
その言葉を聞いて、伊夜は美しい瞳を少し伏せた。
なんて偽善的な「一番の姉」だろう……
憎しみが、彼女の輝く桃の花のような瞳全体に広がっていった。妖艶でありながらも、どこか屈しない強さを秘めていた。
「……そう。なら、すぐに帰るわ」
伊夜は唇の端をかすかに上げ、そして電話を切った。
彼女が家に着いたとき、凪咲がまだあの余裕を保てるかどうか――見ものね。
……
木村邸。
伊夜は宵月司星のだぶだぶの白いシャツを着て、何気なく家に戻ってきた。
雪のように白く滑らかな脚が露わになり、肌にはほんのりとした紅が差し、無自覚な色気と気だるさが滲んでいた。
「星夏、あなた……」
凪咲は目を見開いて伊夜を見つめた。「どうしてサングラスもマスクもせずに、そのまま帰ってきたの!」
もし誰かに見つかったら……
歌姫星夏の本当の顔が明らかになってしまう。そうなれば、彼女が伊夜の代わりになる機会など二度とないだろう。
「優しいお姉さま、昨夜私に何があったのか、まずは気にかけるべきじゃない?」
伊夜は無造作に海藻のような巻き髪をかきあげる。
あらわになった首筋には、昨夜の熱を物語る紅い痕。
「あなた……」凪咲は言葉を失い、目を見開いたまま凍りつく。
彼女は確かに伊夜の服装や首筋の艶めかしい痕に気づいていなかった。
彼女が気にしていたのは、自分がまだ歌姫でいられるかどうかだけだった!
「昨夜どこにいたの?」凪咲は感情を落ち着かせ、心配するふりをして偽りの質問をした。
伊夜は極端に短いシャツを軽く引っ張り、「抱かれてたわ」と言った。
四つの言葉が、ピンク色の唇から軽やかに発せられ、まるで何の感情もないかのように、とても気ままだった。
「信じられない……!」凪咲は怒りで立ち上がった。「そんな姿で木村家の令嬢だなんて……ましてや、歌姫星夏の資格なんてどこにあるの?」
もし彼女がパパラッチに撮られたら!
歌姫星夏の本当の顔が露見して、仮面を使って彼女になりすますことができなくなるだけでなく!
この爆弾級のスキャンダルは、姉妹二人で作り上げたスター歌姫を崩壊させるのに十分だった!
「ねぇ、“一番の姉”って言ったくせに、私の心配はもうしないの?」
伊夜は思わず嘲笑し、凪咲を見る瞳には軽蔑の色が満ちていた。
こんなに早く正体を現すなんて、本当に簡単に引っかかるわね。