私は信じたいものを信じる

宵月司星がなぜ自分をこのまま行かせたのか分からなかったが、木村伊夜はとりあえずほっと胸をなでおろした。

しかし、彼女が個室を出たとたん、強い力が彼女の手首を掴み、角の方へ引きずっていった。

「離して!あなた誰…んっ…」

伊夜はもがいても無駄だと悟り、怒りの眼差しで男を睨みつけたが、すぐに唇を押さえられてしまった。

やっと彼女は相手が誰か分かった。薬を入れたあのバーテンダーだ!

「どうだった?うまくいった?」バーテンダーは期待に満ちた表情で彼女を見つめ、切迫した様子で尋ねた。

伊夜はすぐにバーテンダーの意図を理解した。

彼女は手を上げてバーテンダーの手首を払いのけ、極めて自然に媚びた表情に切り替えた。「お兄さんがこんなチャンスをくれたおかげで、大成功よ♡」

確かに大成功だった。

彼女は司星を助けることに成功したのだから。

「よかったよかった」バーテンダーはほっと息をついた。

彼はてっきり今日はここで一晩中待機することになると思っていたのだ!

ただ、彼が想像もしていなかったのは、若帝がまさかの早漏だったということだ!

「お兄さんはどうして私のこと、そんなに気にかけてくれるの?」伊夜は魅惑的に微笑みながら、バーテンダーの肩を軽く突いた。「もしかして…」

バーテンダーは即座に表情を変え、どもりながら言った。「俺は…俺はただ…お前が若帝様の怒りを買わないか心配だっただけだ!」

伊夜は大げさに納得したように頷いた。

バーテンダーは彼女がこれ以上何か聞いてくるのを恐れ、もう彼女の行く手を遮ることもなく、身を翻して宵月司星の乱行の監視カメラ映像を消去しに行った!

「小ざかしい」

伊夜は軽く鼻を鳴らすと、踵を返してステージに戻ろうとした。

バーカウンターの前を通りかかった時、秋山君がその姿に気づき、ちらりと視線を向けた。「トイレにしては長かったな」

「秋山社長も暇なんですね。女性従業員のトイレ時間まで計ってるなんて。秒単位で給料から引くんですか?」

「口が達者だな」

「お褒めいただき光栄です」伊夜は澄んだ瞳と白い歯を見せて微笑んだ。

彼女はすぐに身を翻してセンターステージに戻った。今回はダンサーの代わりではなく、その隣に立った。

「女神ーーー!女神!」

「隣で踊ってるやつ邪魔!さっさと降りろ!」