木村伊夜は真っ赤なロングドレスを身にまとい、スリットから長く白い脚が覗いていた。赤と白のコントラストが夜の闇に溶け込み、妖艶な魅力を放っていた。
「星夏様、こちらへどうぞ」
秋山君はすでに今夜、貴賓が来ることを知っていた。
彼は伊夜の前に歩み寄り、紳士的に軽く一礼して手で合図し、彼女をバーの中へと案内した。
伊夜は赤い唇を軽く上げ、「ありがとう」と言った。
彼女は笑いをこらえていた。秋山君が彼女にこれほど敬意を示し紳士的に接することに、少し慣れない感じがしたからだ。
「星夏様、リサがお待ちです」
秋山君は伊夜を個室の前まで案内し、ドアを開けようとしたが、彼女に止められた。
伊夜は花のように微笑み、美しい瞳に艶やかさを宿らせて、「秋山社長、私のドリンク代は無料にしてくれるかしら?」と尋ねた。
以前、彼女は秋山君と約束していたのだ。
古い友人がここに来たら、ドリンク代は無料にすると。
秋山君は一瞬固まった。「歌姫は億単位の価値がありますのに、まだこの程度のドリンク代を気にされるのですか?」
「お金を気にしない人なんていないわ」伊夜は手で少し巻いた長い髪をかき上げた。「秋山社長が以前、小さな歌手を雇って、私の歌を上手に歌ったからって万単位の報酬を払ったって聞いたわ」
伊夜が彼から数十万を巻き上げたことを思い出し、秋山君はまた痛みを感じた。
重要なのは、今また歌姫星夏に出会ってしまったことだ。
騙される道は...長く続く。
「今やその歌の本人が来たのに、秋山社長はタダにもしてくれないの?」
伊夜は輝くように笑い、その美しい桃の花のような瞳は魂を奪うかのようで、人を拒絶できないほどだった。
秋山君は「...」と言葉に詰まった。
彼はなぜか、この口調にどこか見覚えがあるような気がした。
「星夏様が貴賓であれば、リサ様がドリンク代のことで悩ませることはないでしょう」
秋山君は唇を少し曲げた。自分の断り方は非常に婉曲で、失礼にもならないと思った。
「うーん...」
伊夜は細い指を唇に当て、「理にかなってるわね」と言った。
名高い歌姫が自分を許してくれそうだと見て、秋山君はようやく安堵のため息をついた。
次の瞬間、彼女はこう言った。「じゃあ次回ね。私が一人で来た時は、秋山社長、無料にしてね」