「宵月、この件について知る権利がある」

音声ハウスを出るなり、杉本裕子は木村伊夜を抱きしめ、興奮して回り始めた。

「星夏、すごく嬉しい!まさか井上拓也先生のチームに私の音楽を制作してもらえるなんて!」

裕子はぴょんぴょん跳ねながら、笑いで細くなった瞳と陽気な様子で、周りの人までも明るい気持ちにさせるようだった。

伊夜も思わず口元が緩んだ。

彼女はこれまで裕子がこんなに喜ぶ姿を見たことがなかった。「これで安心して大会に臨めるでしょ?井上先生も見に来るって言ってたわよ。失望させないでね!」

伊夜は目を瞬かせ、肘で裕子をつついた。「もし落ち込んだりしたら、見下すわよ」

「うんうん!」裕子は小鳥のようにこくこくと頷いた。

彼女は青空を見上げた。陽の光は優しかったが、少し眩しかった。

裕子は腕を上げて日差しを遮り、まるで希望が見えるかのように言った。「星夏、私も姉さんみたいな素晴らしい歌手になれるよね?」

伊夜は横目で彼女を見つめた。

今の裕子は情熱に溢れ、憧れに満ちていた。ちょうど幼い頃の自分がステージで歌っていた時のように、いつか大きな舞台に立てることを願っていた。

でも残念ながら…

「きっとなれるわ」伊夜は淡く微笑んだ。「もしかしたら、次の星夏になるかもね」

もしいつか、自分が歌えなくなったら。

星夏のチームを裕子に任せよう。彼女は星夏が大好きで、才能もある。それも悪くないかもしれない。

伊夜は淡く微笑み、少し諦めと苦さを含ませて言った。「裕子、行きましょう」

「うん」裕子は彼女の腕に手を回した。

二人の少女は安城の広い通りを歩きながら、裕子は熱心に親友と大会について話し合っていたが、伊夜は徐々に笑顔を消していった…

いいな、同じ年齢なのに、裕子はまだ夢を持ち、何も気にせず思い切り追いかけることができる。

……

薔薇園。

宵月司星はガラス張りの部屋でコーヒーを飲みながら、M国支社の土地の商業入札書を研究していた。

「コンコンコン——」

山崎執事が丁重にドアをノックして入ってきた。「若様、菅原様がお見えになりました」

司星は手元の書類を撫でながら、何気なく目を上げた。「何の用だ?」

「重要な件でお会いしたいとのことです」山崎は答えた。

司星は手元の入札書を一瞥し、それを金庫に封印してから立ち上がり、応接間へ向かった。