杉山由夏は木村伊夜をじっと見つめ、表情を引き締めた。
彼女は眉をかすかに寄せ、わざと怖い顔をして言った。「まずは自分のことを大事にしなさいよ!私、聞いたわよ。彼、酔っ払って胃から出血して入院したけど、大したことないって」
伊夜は唇を少し尖らせた。
彼女は哀れっぽく目を上げて由夏を見つめた。その潤んだ瞳の様子は、まさに断りきれないものだった。
「もう、しょうがないわね」由夏は手を振った。
彼女はこの妖精のような伊夜に完全に負けたようだった。
由夏は警告するように伊夜を見つめ、そして不機嫌そうに立ち上がった。「一目見るだけよ。それからすぐに戻ってきて寝るのよ」
伊夜はすぐに笑顔を見せた。
彼女は必死に頷き、三本の指を立てて誓った。「超おとなしくするわ、一目見るだけだから」
由夏は目を回した。「本当にあなたには困ったものね」
彼女は斎藤斗真に目配せし、二人で伊夜をベッドから起こした。
「風邪ひかないようにね」斗真はかがんで毛布を取った。
由夏は彼の手からそれを奪い取り、伊夜の肩にかけてから、彼女を抱えて病室を出た。
河野旭陽が外で夜勤をしていて、三人が出てくるのを見て驚いた様子だった。「木村さん、どうして休んでいないんですか?」
「伊夜が眠れなくて、少し歩きたいって」由夏は毛布をしっかりと包み直した。「大丈夫よ、私たちがついているから、何も問題ないわ」
旭陽は頷いた。
しかし彼はまだ少し躊躇っていた。「夜は冷えますから、あまり長居せず、早く木村さんを休ませてあげてください」
「安心して」斗真は旭陽の肩を叩いた。
皇家親衛隊は引き続き厳重にこの廊下を警備していた。
斗真と由夏は伊夜を支えて角を曲がった。そこには宵月司星の病室があった。
なんと、彼女と彼はたった一つの廊下を隔てただけだったのだ……
伊夜はゆっくりと歩いて行き、ドアの外に立ち、縦長のガラス越しに熟睡している男性を見つめた。
司星は彼女と同じ病院着を着て、ベッドに横たわっていた。眠っていても眉間にはしわが寄っていて、昼間に何か心配事があったのか、それとも夜に悪い夢を見ているのか……
「司星……」
伊夜はガラスに手を当てた。
彼女は指先でそっと撫でるように動かした。まるでそうすれば司星の眉間のしわが伸びるかのように。