若い女性――ジェン・ジェニファーが助けを求めに来た。
なぜか彼女の背後には大小さまざまな風船がぶら下がっていて、中には支払い請求書らしき紙、付箋だらけの論文、縫いかけのズボン……そして畳まれていない衣服やリネン類がぎゅうぎゅうに詰まっている。
「お忙しいところすみません、早速お会いいただいて…私はジェン・ジェニファーです」
彼女は満面の笑顔で言った。まるで頭の真上に漂っている、ゴミ袋を詰め込んだ風船に気づいていないかのようだった。その風船はゆっくりと沈みかけ、彼女の頭の動きにつれてフワリと揺れている。
私は唖然としたが、なるべくジェン本人に集中しようと努めた。
ジェンが抱える困惑は以下の通りだった:
風船は「あとでやろう」と思うタスクがあるたびに現れ、それが終わるまで消えない。
風船内の物は映像ではなく、ジェン自身がその「やるべきもの」を詰め込んだ本物。ゴミ袋すら本物だ。
ときどき、風船ではない不気味な球体が頭の上に現れ、それは破裂すると大きな音を立て、液体を飛び散らす。
ジェン以外にも風船は見えるが触れない。しかしその“球体”は他人にも触れられ、けがをした人さえいる。
まるで初めて見る例で、とても興味深かった。
私は助手のアンを連れて、ジェンの自宅環境を調査することにした。
道中
ジェンの風船にはすべて紐がついていて、車の外に出たときには異常な負荷がかかり、たった3kmの距離を半時間かけて移動した。ジェンは首をかしげて説明した。
「普段は歩くしかないの。電車やバスに乗ると風船が引っかかるから。自転車にしたこともあるけど、風でバランス崩して吹き飛ばされちゃって…。でも骨折しなくてよかった。完全に遅刻だったけど…」
集合住宅前
私はゴミ箱を見て尋ねた。「このゴミ袋、捨てても大丈夫?」
ジェンは我に返り、風船に繋がる紐を引き、必死にゴミ袋を風船から取り出した。その瞬間、袋が捨てられたと同時に風船が破裂し、**ドーン!**という大きな音を立てて消えた。ジェンは淡々と説明した。
「時間が長ければ長いほど、音が大きくなるのよ…」
破裂した袋からは確かに腐敗臭が漂っていた。
玄関前
郵便受けがジェン宛ての郵便物でいっぱいだった。思わず触れると、ジェンの「ダメっ!」という声とともに、新しい風船が郵便受け内で突然現れ、大量の郵便物を抱えてフワリと浮かび上がった。
「ごめんなさい…」と私は謝った。
「まあいいの。結果的に処理しなきゃいけないことだし」とジェンは淡々と言った。
彼女の部屋
中に入ると意外にも部屋は整頓されていた。風船に隠されていただけで、家具も空間もきちんとしている。
「どうやって寝るの?」とアンが尋ねた。
「取り出せば寝られるのよ」とジェンは気軽にベッドリネンの風船に手を伸ばし、引っ張り出した。今回の風船破裂は静かだった。
しかし数分後、風船は次々と部屋に充満し、室内は一気に雑然とした。
「じゃあ、まず整理から始めようか」と私は提案した。
「でも、私は整理したくないっていうのが問題で来たのよ」とジェンは返した。
「風船を整理しなきゃ、この現象を理解できないし、解決策も見つからない」と私は続けた。
ジェンは渋々うなずいた。
整理作業
私たち三人で片付けを始めた。
最初に見つけたのは小さな風船。中には本の束が入っているが、不思議なことに本は縮んで見えた。
「これは?」と聞くと、ジェンは首をかしげた。「数年前に読みたかった本たちよ。でも忘れるたびに風船の中で小さくなるの」彼女が引き出すと、本は元のサイズに戻った。
「なるほどね…」
「でも今は読む時間ないから」と言いながら彼女は本を戻す。そのとたん、風船はまた少し小さくなった。
次に私が指したのは、布団やリネンが詰まった大きな風船だった。「これからいくわよ?」
「気にしなくて平気。1週間被せてただけだし、清潔だよ」とジェンはおどけて布団を引っ張り出した。**パンッ!**とまた風船が破裂した。
私は内心で静かに推理した。「大きめの風船ほど、破裂が大きいのか…?」
さらに整理続行
「え、ちょっと待って、なんでこんなに大きなボールがあるの?これも?まさか…バランスボール?」
ジェン:「あ、うんうん、これもそう。でもこれは私について来ないタイプのやつ。不安がパンパンに詰まってるんだけど、最近は普通にバランスボールとして使ってるの、あはは。」
アンが小さい風船に気づいた。「これ、歯ブラシだけど…?」「充電スタンドが見つからなくて、普通の歯ブラシとして使ってた」ジェンは答えた。「それならスタンドを探しましょう」と私は言い、腕まくりして家中を探し始めた。
すると、突然何かを押してしまい……
「ピッ」と電子音が鳴り、次の瞬間――
部屋中の風船が一斉に破裂し、詰め込まれていたすべての物が散乱した。
ジェンは数秒間、呆然として意識を失ったようだった。
散乱後の片付け
風船がなくなり、突然ただの部屋掃除に切り替わった私たち。苦笑しながら手際よく片づけた。
電話の音
整理が終わったタイミングで電話が鳴った。ジェンが受話器を取ると、頭の上に小さな泡立ちが次々に現れた。実際に沸騰するお湯のようにブクブクと。彼女の頬はみるみる赤くなり、そして電話越しに静かに、しかし凛とした声で言った。「実家に帰らなくちゃ…農場が台無しにされてて…でも大丈夫、すぐ終わらせて帰るから」まだ頬の赤みが残っていたが、小さな泡は弾けて消えていった。私は情報を整理しながら彼女に尋ねた。「ジェニファーさん、この『Aves』としての能力、詳しく知りたいですか?」
彼女は荷物整理を続けながら言った。「ええ、でも今すぐ帰らなきゃ。次はまた来てもいい?」私は静かに切り返した。「もし今すぐ、結論が出せたら?」彼女は手を止め、立ち上がった。「ほんとうに?」
核心—彼女の能力の分析
私は穏やかに言葉を続けた。「あなたの能力は――やるべきタスクを、この風船(バブル)に入れて、完了するまで消えないようにする。そこで重要なのは、なぜあなたがすぐに対処しなかったのか。それは“やる気”、モチベーションが不足しているから。《モチベーション》は無限ではなく、本来はあなたの内側にあるものが、この風船に吸い取られてしまっているんです」ジェンは鏡で頭上を見上げ、「ここ?」とつぶやいた。「そう。そのバブルを使って、今、この荷物を整理してみて?」すると、整理された瞬間、そのスーツケースに風船が現れ、透明な膜に包まれて宙に浮いた。私は続けた。「あなたは、もう故郷に帰りたくないんじゃないですか?」ジェンは沈黙し、そして小さく頷いた。「はい。さっきまで、頭の中にモチベーションが全部漏れちゃってた」ふっと間を置いて――「では聞きます。ジェニファーさん、なぜ今、農場に帰る必要があるんですか?」「…それは…」「もっと具体的に」と私は促した。彼女が答えを探してゆっくり言いかけた。その瞬間、彼女の頭上に泡立ちが出現し、泡がスーツケースへと吸い込まれていった。鏡に映る自分を見つめ、ジェンは涙ぐんだ。「…わかりました。ありがとう。本当に。治療費は月曜に小切手でお送りします。本当に感謝しています」
親愛なるジェニファーへ
あなたの能力は病気なんかじゃない。
それはあなた自身が不安に立ち向かうために作り上げたプログラムであり、
人類の進化が生んだ、最も精巧な「生存の猶予システム」なのです。
小切手、確かに受け取りました。
――ルーモス