城壁の上から、兵士が下を覗き込んで叫んだ。「二人でいい、さっさと上がれ!」
白石のじいさんが、雷太と悠斗をチラッと見て、渋々踵を返そうとしたその瞬間、城壁の上から歓声が上がった。さっき話しかけてきた兵士が慌てて城外に目をやり、すぐさま下の三人に向かって叫び直した。「運いいぞ! 全員上がれ!」
悠斗が「どこに階段が…?」とキョロキョロしていると、すでに城壁から縄梯子が下ろされていた。
高橋雷太が猿みたいにスルスルと登っていく。悠斗も負けじと後に続き、最後に白石のじいさんがのろのろと登った。
雷太の動きは速い。まるで忍者のように梯子を駆け上がり、あっという間に城壁の上に姿を消した。
悠斗は「もう比べるのやめよう…」と諦めつつ、なんとか梯子を登り切り、城壁にたどり着いた。
雷太や兵士たちに倣い、城外に目を向けた。
夜は深く、闇の中に数個の星が瞬き、血のように赤い月の周りを彩っている。この異世界の夜に、どこか神秘的で妖しい美しさが漂っていた。
遠くの闇の中に、4つの赤い光点が浮かんでいた。2つが前、2つが後ろ。まるでネオンの尾を引きながら、猛スピードで城壁に近づいてくる。
光点が近づくにつれ、悠斗はそれが何か分かった。トカゲのような巨大な生き物だ。身体はでかく、目は血のような猩紅色で、冷たく光っている。
城壁の兵士たちは、緊張するどころか、妙にテンションが高かった。
一人がニヤリと笑って言った。「へ、紅のトカゲかよ」
紅のトカゲがどんどん近づいてくる。兵士たちが弓を手に取り、構えた。射程圏内に入る直前、弦がピンと張られる。
悠斗の心臓がバクバクした。迫りくる紅のトカゲを凝視しながら、戦いの空気に飲み込まれていく。
ついに、先頭のトカゲが射程に入った。
「撃て!」
兵士の一人が叫ぶと、矢が一斉に城壁から放たれた。
紅のトカゲが低く唸り、身をよじって避けようとしたが、2本の矢がその身体に突き刺さった。
「ギィャア!」
トカゲが苦しげに吠え、傷口から鮮血が噴き出した。
「もう一発!」
別の兵士の号令で、矢の雨が再び降り注ぐ。連続の攻撃に、トカゲの動きが鈍っていく。さらなる矢が突き刺さり、血が泉のように溢れた。
ついに、紅のトカゲが最後の絶叫を上げ、ガクンと膝を折った。巨大な身体がビクビクと震え、目から光が消え、口から血泡を吐いて動かなくなった。
だが、後ろのもう一匹が射程に入っていた。兵士たちが矢を放つが、こいつは様子が違う。危険を察したのか、急にスピードを上げ、城壁に向かって突進してきた。
四本の脚が地面を蹴り、土煙を巻き上げながら、矢を軽々と避け、城壁の下に消えた。
悠斗は慌てて壁から身を乗り出し、下を見た。紅のトカゲの鋭い爪が石壁の隙間にガリッと食い込み、後ろ脚で力強く蹴って、まるでバネみたいに跳び上がってくる。その速さ、まるで忍びの如し!
爪が石を削るたび、キィィッと耳障りな音が響く。尾は壁にピタッと張り付き、まるでヤモリみたいに身体を支えている。
「撃て! 撃て!」
兵士が叫び、矢の雨が下に降り注ぐ。だが、紅のトカゲは器用に身をひねり、全部避けてしまった。
「やべえ、登ってくるぞ!」
悠斗の背筋がゾクッとした。トカゲがもう城壁の頂上に迫っている。
だが、兵士たちは動じなかった。弓を捨て、槍と大型の弩に持ち替えた。
一人が冷たく笑った。「ま、上がってきなよ」
悠斗がもう一度下を見ると、トカゲの爪が壁の端に届きそうだった。でかい、全長3メートルはありそうな身体。硬い鱗に覆われ、目は狂気じみた光を放っている。
「どけ!」
兵士にドンと押され、悠斗はよろけて城壁に尻もちをついた。すぐ横には、二人で操作する大型の弩。兵士がゴリゴリと弦を巻き上げ、ズンッと重い音が響く。
その瞬間、紅のトカゲがバネのように跳び上がった。悠斗は息を止め、巨大な影が弧を描いて飛んでくるのを見た。
刹那、二人の兵士が槍を構え、一気に突き出した。
「グシャッ!」
槍の先がトカゲの両目を貫き、眼窩を突き破った。トカゲが断末魔の叫びを上げ、空中で身体をビクビク震わせた。
直後、弩の矢が「ドンッ!」と放たれ、流星のようにトカゲの腹を直撃。衝撃で身体が後ろに弾かれ、猩紅の血が花火のように夜空に散った。
槍と弩のダブル攻撃に、紅のトカゲはバランスを崩し、ドスンッと地面に叩き落とされた。衝撃で土煙が舞い上がり、耳をつんざく音が夜に響いた。