詐欺師ではない

葉黙の言葉を聞いて、老人の目は明らかに驚いた目になった。彼は葉黙の医術が本物だと知っていても、完全に治せるとは信じがたかった。しかも、この男は最初から金の話ばかりで、医の倫理など微塵もない。

医学では七割の成功率だけでも、相当に高い確率とされているが、この男は七割の確率で治せると軽々しく言い切った。そのせいで老人は最初抱いていた葉黙への信頼が揺らぎ始めた。しかし、治療を受けなくても、彼の余命は数か月くらいだ。完全に治せなくても、ただ金を騙し取られるだけだ。

それに、この男が金を騙し取ろうとしても、そう簡単にはいかないはずだ。そう考えて老人は言った:「今は完全に治せる自信がないと言うが、いつになれば完全に治せる自信が持てるのか?」

「三年ほどでしょう」と葉黙は淡々と笑いながら答えた。

葉黙は心の中で、自分の「銀心草」が収穫できるようになれば、修練がそれ以上進まなくても、練気三層くらいは達成できるだろうと考えた。老人の質問の意図は分からなかったが、この老人が自分を疑っていることは分かる。しかし、気にしなかった。どうせこの金は一度きりしか稼げないのだから。

彼は自分の情報を他人に教えるほど愚かではなく、この金を稼がなくても自分の情報は漏らさないつもりだ。ここがどんな場所か、葉黙はよく知っている。もし誰かが彼に奇術を持ち、しかもこの世界の科学では説明できない奇術だと知れば、葉黙にとってまずいことになるだけだ。

今の彼の実力では逃げ切ることすらできない。一国の力の実力を、彼は知っている。だから、こっそりと金を稼ぐしかないので、堂々と自分の能力を見せることはできない。実験用のモルモットにされて解剖されるのは御免だ。

「それなら対症療法でいいでしょう。ただし、お主の要求する金額は今手元にないので、治療が終わってから振り込むか、一緒に引き出しに行くしかありませんな」と老人は興ざめした様子で言った。彼はこの医者が詐欺師だと確信した。今は治せない病気なのに、三年後に治せるというのは、誰も信じないだろう。

それでも葉黙に試してもらおうと思ったのは、先ほどの銀針で意識が戻ったから、一度試してみたいという気持ちが芽生えただけ。それに、この医者がどんな方法で騙すつもりなのかも知りたい。彼は利康に勤めているものなら、逃げられるはずがない。

しかし葉黙は首を振って言った:「お金がないのなら申し訳ありませんが、お力になれません。私が治療するのは金を稼ぐためです。振り込みや一緒に引き出しに行くことには興味ありません」

葉黙はその場で老人の提案を断った。十分な実力がなければ、自分を表に出すつもりはない。人の心の陰険さは十分経験済してきたから、師匠の洛影以外、誰も信用しないつもりだ。それに、この少女が金を持っていないはずがないと思った。これほど裕福そうな人が、カードくらい持っていないはずがない。

老人の表情は即座に険しくなった。こんな医者がいるものか。詐欺師かどうかは別として、治療もしていないのに閻魔の勘定書のように診療費を要求するなんて。これはもはや医の倫理の問題ではなく、倫理が完全に欠如している問題だ。

「おじいちゃん、今の医者はみんなそうだって聞くわ。お金がないと治療してくれないの。怒らないで」晴ちゃんと呼ばれる少女は、おじいちゃんが危機を脱したことで心が落ち着き、なだめるように言った。

「対症療法ならいくら必要なの?」と晴ちゃんと呼ばれるこの少女は、実に賢い子だ。葉黙にある程度の実力があることは分かったが、大げさにしてる可能性も高いと見抜いた。だがそれでも、おじいちゃんを確実に治せると断言する唯一の人物を見逃したくなかった。

「二十万です」葉黙はこの少女の身なりを見て、その服装だけでも二十万はしそうだと判断し、二十万なら簡単なはずだと考えた。

しかし少女は苦笑いを浮かべた。彼女の全財産を合わせても五万しかないのに、この男が二十万も要求するとは。もしかして自分の服装が高価そうだから、そんな金額を言い出したのだろうか?でも、この服は自分で買ったものではなく、叔母からの贈り物なので、自分では買えないものだ。

「私には五万しかないの。全部ここにあるわ。暗証番号は880521よ」そう言って少女は持っている唯一のカードを葉黙に渡した。

葉黙はカードを受け取り、少女を一瞥した。心の中で、なんてケチな人だと思った。自分の護心丸一個だけでも、五万元以上もするのに。とはいえ、五万もそれなりの額だ、金稼ぎに関して損をしても、彼はちっとも気にしない。せめてこの五万があれば、当面は金の心配をしなくて済む。

カードを受け取ると、それ以上は何も言わず、箱を開けて黒ずんだ丹薬を取り出し、老人に渡して言った:「まずこの護心丸を飲んでください。その後で鍼を打ちます」

「これは何の薬?護心丸?なんて不気味な色なの。あなた、本物の医者ですか?ここは利康病院ですよ」晴ちゃんと呼ばれる少女は葉黙の手を引き止め、心配そうに尋ねた。

「治療を受けたくないなら、カードを返してもいいけど」葉黙は不機嫌そうに言った。

老人は葉黙の目を見つめ、手を振って言った:「晴ちゃん、下がりなさい。その丹薬、わしに渡しなさい」

老人は丹薬を受け取り、心の中でため息をつきながら、躊躇なく飲み込んだ。彼は死を恐れているわけではないが、もし本当に三年生きられるなら、いろいろなことも余裕を持って整理できる。突然死んでしまえば、一族が混乱し、没落する可能性もある。それだけは、彼が望まないことだ。

だから葉黙が九割の可能性で、詐欺師だと確信していても、一割の希望があるなら試してみる価値があると考えた。

老人が丹薬を飲み終えるのを見て、葉黙は頷き、老人に横たわるよう指示して、鍼を打ち始めた。

最初から葉黙を疑っていた晴ちゃんは、葉黙が取り出した黒ずんだ丹薬を見てから、さらに疑いが深まった。しかし、葉黙の鍼を打つ速さとおじいちゃんの表情が和らいでいくのを見ると、再び期待を抱き始めた。

漢方医の鍼治療を実際に見たことはなかったが、テレビでは見たことがある。普通の漢方医の鍼治療は、決して葉黙のようにスムーズに薦めないはずだ。この医者は速い時、手の残像しか見えないほどの動きをして、おかげで彼女が再び信頼を寄せ始めた。

最後に彼女は、葉黙への疑いは完全に消えていた。なぜなら葉黙の額には汗が浮かんできたからだ。

突然、少女は再び緊張し始めた。それは、老人の顔に苦痛の表情が浮かんだからだ。彼女が声を上げようとした時、葉黙は突然老人を引っ張って体を裏返し、背中に一掌を打ち込んだ。

「ぷっ」という声とともに、老人は濃い黒色の粘っこい物を吐き出した。

葉黙はほっとして少女に言いつけた:「おじいさんは治りましたよ。今後の三年間は何の問題もありません。後は看護師を呼んで掃除してもらってください。私はこれで失礼します」

言い終わると、少女の返事も待たずに、小さな薬箱を背負って立ち去った。晴ちゃんという少女が我に返って追いかけようとした時に、葉黙はすでに姿を消していた。

「おじいちゃん……」晴ちゃんという少女は再び救急室に戻り、心配そうに呼びかけた。葉黙が金を騙し取って逃げる類の人間ではないかと疑い、利康病院の人間ではないかもしれないとも思った。彼が来た時、看護師が彼は崔先生ではないと言っていたことを今になって思い出したが、今さらはもう老いつけようもない。

老人はすでに回復しており、タオルで口を拭きながら、奇妙な表情を浮かべて少女に向かって言った:「あの医者は詐欺師ではない。確かに体が軽くなって、以前の重苦しさがなくなった。こんな神医がいるとは思わなかった。後で看護師に聞いてみなさい。あの医者は一体誰なのかを。このような人物とは是非付き合いを持ちたいものだ」