「葉さん、『優れた者が先』という言葉があるんですよ。俺は年上ですが、君が並の人間ではないことくらい、分かっています。君はまさに『優れた者』なのでしょう。だからさん付けで呼ばせていただきます。『天下の興亡は匹夫にも責任がある』といった正論は、あまり分かりませんが、南のベトナム人が我が国境で略奪や殺戮を行い、悪事の限りを尽くしています。
「三十年前、我が軍は自衛反撃戦を展開しました。南のベトナム人は自国内の華人を虐殺・侮辱し、華人の工場を焼き討ちにしました。数え切れない同胞が無慈悲に殺されました。あれから数十年も経ちましたが、奴らは未だにその行為を止めていません。表立っては控えめになりましたが、裏ではこっそりと我が国を、脅かし続けています。
「今回、俺の仲間数人がベトナム人に包囲されました。この郭起は命をかけても、彼らを救出しなければなりません。同じ華夏人として、どうか助けていただけませんか。それに、我々はここの地形にそれなりに詳しい。仲間さえ救出してくれたら、君の探し物も、手伝わせてあげます」郭起は熱心そうに、葉黙を見つめながら提案した。
葉黙は暫く黙りこんだ。確かに彼もベトナム人が嫌いだ。しかし郭起に探し物を手伝ってもらうのは、遠慮したいと思っている。自分で数日探しても見つからなかったものを、郭起たちが見つけられるとは思えない。しかし、郭起の言うことは理にかなっていた。華夏人同士として、この程度の手助けはするべきだろう。
そう考えた葉黙は頷いた。「郭さんの言う通りだな。気にしないでくれ。先ほどは考えが足りなかった。では行こうか。そこに向かう途中、ついでに状況を詳しく説明して。南のベトナム人くらい、俺には敵わないけど」
「ありがとうございます、葉さん」郭起は葉黙が承諾したことを喜び、また抱拳の礼をした。彼は葉黙が薄情な人間ではないことを理解した。多分長年の隠遁生活を送っていたため、人間関係を重んじない性格になっただけだと思った。
郭起は三丁の銃を拾い、そのうちの一丁を葉黙に差し出した。
葉黙は手を振って断った。「結構だ。銃は好きじゃないんだ。持っていても面倒だけ」
郭起は葉黙が素手で数人の兵士を倒した様子を思い出し、納得した。