穆長天は礼を終えると、少し気まずそうに言った。「王様、まさか穆府を救ってくださったのがあなただったとは思いもよりませんでした」
穆長天たちは北郡への道中で、梁縱たちが話していた謎の王様が北王様ではないかと考えたことがあった。結局のところ、北郡は北王様の封地なのだから。
しかし「その謎の王様が北王様である」という考えは、彼らの頭の中をかすめただけで、すぐに否定されてしまった。
しかし最後に彼らの前に立っていたのは、まさに北王様本人だった。
これには彼らは非常に衝撃を受けた。
噂では無学で放蕩無頼な北王様が、こんなにも深い計算をしていたなんて、とても信じられなかった!
北王様が大還丹を持っていることや、これほどの勢力を手中に収めていることだけを見ても、もし皇位継承に参加していれば、大皇子様も彼の相手にはならなかっただろう。
この時、穆長天親子三人の心に同じ疑問が浮かんだ。北王様はこれほどの勢力を持っているのに、なぜ実力を隠していたのか?
もし皇位継承に参加していれば、彼の持つ勢力に江南の名門の支持が加われば、都の座は彼のものになっていた可能性が高かった。
今や北郡に追いやられた北王様が、もし都の座を狙うのなら、最終的には兵を起こすしかないだろう。
しかし北郡の状況は穆長天たちも見てきた通りで、北郡で兵を起こしても、大夏の精鋭部隊には勝てないだろう。
たとえ勝ったとしても、大夏は必ず生灵塗炭の惨状となり、その時北王様に残されるのは混乱した状況だけだろう。
路辰はこの時言った。「皆さん、座ってください。立っていないで」
そう言って、路辰は個室に入り、入口の錦衣衛士がその後ドアを閉めた。
路辰が個室に入ると、穆長天は直接尋ねた。「王様、これほどの勢力をお持ちなのに、なぜ都で実力を隠されていたのですか?」
路辰は淡々と答えた。「木が林より高くなれば、風がそれを折る」
「父上は今まさに壮年で、もし私がこれほどの勢力を持っていることを知ったら、岳父はどうなると思われますか?」
この言葉を聞いて、穆長天三人は即座に理解した。
北王様は皇子として、これほどの勢力を持ち、軍隊にも自分の部下がいる。夏帝がそれを知れば、必ず疑念を抱くだろう。