クズ男とクズ女！
鈴木花和は携帯を手に取り、画面に表示された時刻を見つめると、また疑問を抱いた。
彼女の記憶に間違いがなければ、昨日は楽人の葬式の日、つまり2018年9月11日だったはずなのに、携帯の画面には2012年7月9日と表示されている。
2012年7月9日？
携帯が壊れているのだろうか？
すぐに鈴木花和は携帯を開いて確認したが、さらに違和感を覚えた。
おかしいのは携帯自体だ！
この携帯は、就職したばかりで、金もなかった頃に買ったものだ。だから通話機能しかない安物、つまりシニア向けの携帯を選んだ。
数年働いた後も、昔を思い出させるし、壊れていなかったため、ずっと使い続けてきた。
しかし3年前に壊れたのでやっとそれを捨て、新しいスマートフォンを買い替えたはずなのに。
なのに今、あの携帯が手の中に握られている。まるで時間が巻き戻ったかのような、夢のような感覚。
鈴木花和は自分の頬を何度か叩いた。夢から現実に戻ろうとするかのように。
しかし頬の痛みも、手の中の携帯も確かにそこにあり、それが花和をますます混乱させた。
何が起きているのか、まったく分からない。
さっきまで楽人の葬式で泣き崩れていたはずなのに、気がつけば豪華そうな部屋の中にいた。
鈴木花和は慌てて、もう一度部屋を見渡した。
この広い部屋はゴウジャスで、高級感があふれている。
広くて柔らかいベッド、美しいブラインドに薄いレースのカーテンは、金色に輝く机と椅子に合わせている。この大胆で豪華な内装は、贅沢に極まっている！
この部屋には見覚えがある。以前来たことがあるような気がするが、いつだったかは思い出せない。
「リンリン……」
そのとき、手の中の携帯が鳴り出した。
鈴木花和が画面を見ると、「哀れなし」と表示されており、それを見た彼女は表情が固まり、目にも戸惑いの色が浮かんだ。
5年前、ある出来事をきっかけに、すべての連絡先を消去したはずなのに。
しかし今は……
疑問を抱きながら、鈴木花和は通話ボタンを押した。
「鈴木花和！どこをうろついているの？もう9時よ！早く会社に来て、今朝の会議資料を整理しなさい！」携帯からは女性の怒りを帯びた声が響いた。「今月のボーナスは、どうなってもいいのか！」
そう言い放つと、花和が返事する前に電話は切れた。
鈴木花和が電話を下ろすと、まだ呆然とした表情で、迷った目で周りを見回した。
突然、机の上に置かれたカレンダーが目に入った。
体の痛みも気にせず、「ドン」という音を立ててベッドから飛び降り、足を引きずりながら数歩で机まで行き、急いでカレンダーを手に取った。
すると、彼女の瞳が一気に縮んだ。
カレンダーには2012年と書かれている。
2012年だって！
鈴木花和はその数字を何度もつぶやいた。携帯の日付表示、そしてこの携帯の存在も、すべてが花和にこう教えている。
今は2012年、つまり楽人が亡くなる5年前だ。
楽人のことを思い出すと、鈴木花和はハッと気づいた。「そうか！5年前なら、楽人はまだ生まれていないはず」
鈴木花和は再び携帯を取り出し、画面に表示された2012年7月9日を見て、突然何かを思い出したかのように、息を呑み込み、興奮してきた。
「ひょっとして？」鈴木花和は驚きを隠せず、信じられない思いでいっぱいになった。
自分が6年前に戻ってきたのか？
もしそうなら、と思いながら、彼女は思わずお腹に手を当てた。どんなことがあっても、今度こそ楽人をしっかり守り、健やかな成長を見守ってあげよう！
「楽人、今度は絶対にあなたを諦めたりしない。ちゃんと傍で成長を見守るわ！」
「リンリン……」
手の中の携帯が再び鳴り、画面を見ると「田中志雄」と表示されており、彼女の口元に皮肉な笑みが浮かんだ。
迷わず電話を切り、携帯をベッドの上に置いた。
やり直せるチャンスを与えられたのなら、かつての過ちは二度と繰り返さない。
鈴木花和は全身の痛みをこらえながら、部屋を見回し、枕の上とベッドの下から自分の服を見つけ出すと、急いで着替え始めた。この部屋の主が戻ってくる前に、早く出て行かなければ！
一方、輝利グループのとあるオフィスで、それなりにハンサムな男が切られた電話を見つめ、険しい顔になった。
傍らには派手な化粧で背の高い女性が立っており、その細長い目つきは意地の悪さを漂わせていた。彼女は眉を上げ、冷笑しながら言った。「どう？あのビッチが、電話に出なかったの？」
最近作ったばかりのネイルを見つめているが、その目には計画が成功したと自慢しているように光っている。彼女はまた煽ってみた。「あのビッチはあなたのことを、死ぬほど愛しているんじゃなかったの？それで、昨夜は他の男と寝たから、申し訳なく思ってるのかしら？」
田中志雄は眉をしかめ、躊躇いながら草刈綾美を見て尋ねた。「綾美、本当にここまでする必要があるのか？」
彼女は男の表情を観察し、両手を握りしめてから開き、再び冷笑した。「あら、同情してるの？」
その言葉を出した後、彼女の表情は一瞬で冷たくなり、追い詰めるかのように言い続けた。「そんなに彼女のことが気になるなら、直接見に行ったらどう。それで私も父さんを説得して、私たちの婚約を解消させられるわ。私の結婚相手なんて、いくらでもいるわ。輝利グループの社長令嬢たる私には、優秀な男は山ほど寄ってくるのよ。田中志雄、私は別に、あなたじゃないとだめなわけじゃないわ！
田舎出身の貧乏人のくせに、私が選んだのは、あなたの幸運よ。私との結婚で30年分の苦労を省けるのよ。そもそも父さんはあなたとの結婚に反対したの。今婚約式を取り消すって言えば、きっと大喜ぶわ！あなたが彼女を選ぶなら、ここで別れましょう！」
田中志雄はそれを聞いて、複雑な顔になって、怒りそうになったが、深く息を吸い込んで、すぐに笑顔を作って、機嫌を取るように言った。「綾美、何を言ってるんだ？僕が彼女を同情するわけないだろう？僕が愛してるのは君だけだよ。なぜあんな女を同情する必要があるんだ？」
暫くして、彼は説明を続けた。「ただ、彼女とは恋人同士だったし、同郷でもあるから、少し可哀想に思っただけさ。」
草刈綾美はまた冷笑して言った。「ふん、可哀想だって？彼女とよその男を同じ部屋に置くように、あんな罠を仕組まなければ、別れる口実が作れないでしょう。そうしないと、私たちの婚約式の時、誰がもこう思うわ。田中志雄という男が、出世のために鈴木花和を捨てたと。そうなれば、責められるのはあなたの方よ！言っておくけど、あなたが彼女を傷つけないために、世間の非難を受け入れるつもりでも、この草刈綾美は決して、受け入れられないわ。
あなたの選択肢は二つだけ。彼女を傷つけるか、婚約式を取り消すかだけ！」
田中志雄の表情が一瞬こわばったが、すぐに笑みを浮かべて言った。「綾美、選択するまでもないさ！」
彼がどちらを選ぶかは、言うまでもない！
草刈綾美は今度こそ心から笑った。「いいわ、志雄。さすがは私が見込んだ男だわ。度胸もあって冷酷になれる。利益のために断固と害を取り除く男よ！」
田中志雄は彼女を抱きしめ、顎を肩に乗せたまま、笑いながら言った。「どうでもいい人間に対しては、もちろん冷酷にならないとな。そうしないと、面倒なことになるだけだから！」
「リンリン……」