大きな眼鏡で顔の半分を隠したが、この話しかけてきた女性は、清楚な美人であることくらい、折田辻司には見分けられる。だからその言葉に驚いた。
しかし、彼はすぐに口角を上げ、謎めいた微笑みを浮かべて、「いいよ」と承諾した。
スーツに着替えてみると、さっきの折田辻司もエリートに見えた。二人が輝利グループに到着し、入口を入ったらすぐに騒ぎが起きた。
「あれ、あの鈴木じゃない?よく会社に顔を出せるわね?」
「昨夜は他の男とホテルに行っておきながら、今日は何事もなかったかのように、会社に来るなんて、田中部長になんて説明する気なの?」
「そうですよ。田中部長があんなに優しくしてくれたのに。それでも満足できずに、他の男に浮気しちゃうの、なんて安っぽい女よ!このビッチが!」この女性は嫉妬に満ちた目で言った。
「パシッ!」彼女が言い終わるや否や、平手打ちを食らった。
殴られた人は、ショックで反応することも忘れた。
皮肉を言ったり、野次馬を見たりした人たちも、しばらく反応できないまま、突っ立っている。
殴られた人が我に返り、腫れ上がった頬を押さえながら、鈴木花和に怒りを込めて叫んだ。「鈴木、あんた、頭がおかしくなったの?」
鈴木花和は冷笑して答えた。「林佐夜子、言っていいことや、言って悪いことも分からない人は、叩かれて当然でしょう?」
ずっと横にいた折田坊ちゃまは思わず眉を上げた。あの清楚な美人だと思っていた女性が、意外とピリッとする女だったのかと思った。
これは面白い展開になりそうだ。
ただその展開は、どこまで面白くなるかな?
彼は非常に期待している!
林佐夜子は殴られた上に罵られ、恥ずかしさと怒りで大声を上げた。「鈴木花和、私が言ったのは事実でしょ?今やうちの誰もが、あんたが年配の男と、ホテルに入ったことを知ってるわよ。今さら私たちの前で威張っていられるの?」
その最後の言葉は、鈴木花和への悪意を隠さなかった。彼女は言い終わるとすぐにスマートフォンを取り出し、会社のチャットグループを開き、鈴木花和の前に突き出し、軽蔑的に言った。「証拠だってあるわよ。もう言い逃れできないでしょう?このグループだけじゃなく、みんなのパソコンにも、あんたがホテルに入った写真が送られたのよ。これでどう?まだ言い訳するの?」
彼女は心の中で、深い恨みを抱いていた。この平手打ちは、後で十倍に返してやる!
鈴木花和は林佐夜子の得意げで恨みに満ちた目を見て、目に鋭い光が走った。
彼女は軽く顔を上げ、周りを見回した。そこにいたのは、野次馬の人や、嘲笑ったり軽蔑したりして、他人の不幸を喜ぶ人ばかり。
そして彼女は鋭く反論した。「ねぇ林さん、あんたの頭、病気なんじゃない?病気なら早く治した方がいいわよ。そうしないと末期脳ガンになって、治療したくても手遅れになるわよ!私がホテルに行ったからって、他の男と同じ部屋に入ったことになるの?誰かが見たの?私がホテルの廊下を通った時に撮られた、この数枚の写真だけで?冗談じゃないわよ!」
折田辻司は失笑しそうになった。今となって彼はようやく理解した、この気性の荒い女性が、ワンナイトラブの相手役を頼んだ理由を。
しかし、彼の心にはやはり疑問が残っている。
普通なら、一介の一般社員の私生活くらい、こんなに大勢の人にばらす必要はないはずだ。
たとえこの子が本当に誰かとホテルに行っても、ただの同僚に過ぎない彼らに何の関係があるのだ?
しかも見たところ、彼女が会社に来る前に、ホテルにいた写真が既に広まっていた。これが罠じゃないと、何だって言うんだ?
どうやら、この子ははめられたか。きっと裏には何か事情があるに違いない。
林佐夜子は鈴木花和に罵られると、顔が怒りで真っ赤になったり青ざめたりした。彼女は暫くして言い返した。「本当に厚かましいわね、鈴木。あんたはうちの会社で、一番ケチな人だけどね。千円だけの弁当でも、惜しむくらいよ。そんなあなたがホテルに行くなんて、絶対にホストとか頼んだに決まってるわ。」
鈴木花和は冷たい声で反論した。「林、あんたはやっぱり病気なのね。話が矛盾しているわ。仮に私が行ったとしても、誘った人の方が払うのは当然でしょう?私がケチだと言っておきながら、私がホストを頼んだなんて、いったいどっちなの?」
周りの人々は鈴木花和の言葉を聞くと、呆然とした!
いつもの大人しくて、控えめで内気だった鈴木花和はどこに行った?
この生意気で強気な女性は誰なのか?
林佐夜子は鈴木花和の厚かましい言葉に、顔が真っ赤になった。反論しようとした時、鈴木花和が眼鏡を外し、黒くて艶やかな長い髪を下ろし、わざと手で髪をかき上げるのを見せつけた。
この瞬間、その場にいた全員も、鈴木花和の言葉ではなく、彼女の容姿に驚愕した。
この人が本当に鈴木花和だと、断言できる人はいるのか?
本当にあの鈴木花和なのか?
鈴木花和は、ごく平凡な容姿で大人しい性格の女の子ではなかったのか?
なのになぜあの眼鏡を外した鈴木花和は、こんなにも美しく、こんなにも魅力的に見えるのか。
透き通るような白い肌、清らかな額、桜色の小さな唇、小ぶりで高い鼻筋、そして最も人の目を引くのは、長いまつげに覆われた大きな目だ。あの細長い目は、目尻が上がっていて、とても清楚で高貴なイメージを残した。
これらの顔立ちが組み合わさって、完璧な美人となっている。
彼女が髪をかき上げる仕草も、言葉では表現できない魅力を放っていた。
彼女は質問した。「この鈴木花和が、こんな顔をしているのに、ホストを頼むなんて、そんな必要が本当にあると思う?」
この言葉を聞いて、何人かの男性同僚が首を振って断言した。「もちろん必要ないさ。君のような美女なら、男は自ら全てを捧げても惜しくないはずだ!」
この言葉を言い終わると、彼らは我に返り、まずいことを言ってしまったと気づいた。
林佐夜子は変身した鈴木花和を見て、一瞬呆然としたが、我に返ると、目に露骨な嫉妬と憎しみが浮かんだ。
彼女は歯ぎしりしながら心の中で呟いた。「やっぱりか、あの鈴木花和、安っぽいくせに、普段から目立たないふりをして、世間と争わないとか演技をしているけど、実際は腹黒くて狡猾な人間なのね。ほら、今だって大勢の前で男を誘惑してるじゃない。なんてビッチな女!」
林佐夜子は心の中で繰り返して罵った。
「ふん、結局男とホテルに行ったのを、認めたってことね」林佐夜子は急いで決めつけた。「でも、認めなくてもいいわ。男があんたを抱きしめている写真だって、あるんだから!」
そう言うと、彼女はその写真を会社のグループに送信した。
すぐに、会社の全員もその写真を見た。
薄暗い廊下で、太鼓腹で醜い中年男性が、一人の女性を抱きしめながら部屋に入っていく様子が写っていた。この女性を知っている人なら、一目で鈴木花和だと分かった。
鈴木花和が醜い中年男性と、同じ部屋に入ってしまった。
これは、動かぬ証拠だ!