「旦那様、派遣した者たちの調査によりますと、河野おじさんはあの場所で何も異常なく、特に変わったことも見つからず、また女性との親密な関係も聞いておりません!」
秦野家から派遣された者が、調査結果を秦野家当主に報告した。
もちろん、この結果は宮崎高空が提供した結果だった。
秦野興太はそれを聞いて、厳しい表情に少し皺を寄せた。これは彼の予想とは全く違う結果だった。
彼は部下を信頼していたが、心の中では何か違和感があった。
河野並木があの場所で何も問題なく、周りに女性もいないのなら、なぜ秦野朱音との婚約を解消しようとするのか?
河野家の後継者として、秦野家との縁組が家族に巨大な利益をもたらすことをよく理解しているはずだ。
秦野朱音は父の書斎の外で、父と部下の会話を盗み聞きし、心に疑問が湧き上がった。
女性としての第六感で、河野並木の心には必ず女性がいるはずだ。だから彼は自分との婚約を望まないのだ。
彼女は両手で拳を握りしめ、すぐに開いて、その場を離れた。
駐車場に向かい、車に乗り込むと電話をかけ、そのまま車を走らせた。
およそ1時間後、彼女は古びた街区に到着した。
車を停めた。
車を降りると、大きなサングラスをかけ、美しい顔の半分を隠した。
そんな姿でも、彼女の身なりと雰囲気は、この場所には似つかわしくなかった。
しかし、彼女はこの場所をよく知っているようだった。
秦野朱音は車を降りるとすぐに横の路地に入った。その路地は暗く、彼女は無表情のまま何度も曲がりくねった後、古いアパートに着いた。とても暗く、周りは静まり返っており、不気味な雰囲気だった。
アパートの中央の階段に着くと上っていき、静かな場所にはヒールの「コツコツ」という音だけが響いた。
ある部屋の中は散らかり放題で、使用済みの紙が床に散らばり、写真の山が大きな事務机の上に積まれていた。もし誰かが来たら、それぞれの写真に写っている人物が帝都の権力者や富豪であることに気付くはずだった。
ある大物の不倫写真や、汚い取引の証拠など、どの写真一枚でも公開されれば世間を騒がせるようなものばかりだった。
縁なし帽子をかぶった痩せた男が机の前に座り、手にペンを持って何かを書き込んでいた。