第310章:折田辻司が知る(その1)

林正彰は何も異常に気付かなかった。

彼は頷いて言った。「うん、イチゴを栽培する場所だよ。広瀬輝が言うには、その土地はイチゴ栽培に適しているから、将来的に観光とイチゴ栽培見学ができる観光基地にするつもりだって」

広瀬輝がその土地を手に入れたいのは当然で、良い理由と口実を見つけたのだ。

もちろん、彼も愚かにも露骨に自分の目的を暴露したりはしない。

だから、この中には多くの事情があり、彼も知らないことばかりだ。

もし暴露される日が来たとしても、広瀬輝には対応策があるはずだ。

折田辻司は急いた様子で言った。「君が言っているその場所は、安則郡の桃の里じゃないか?」

Z市でイチゴが最も有名な場所と言えば、桃の里以外にない。

彼はまさか、桃の里に注目していない短い期間の間に、誰かが桃の里に目をつけるとは思いもしなかった。

しかも林正彰の様子を見ると、桃の里の開発案はすでに承認されているようだった。

林正彰は折田辻司の表情の変化に気付かず、頷いて言った。「そう、桃の里だよ!」

彼が言い終わるや否や、折田辻司は立ち上がり、個室の人々に向かって言った。「申し訳ありませんが、急用ができたので先に失礼します。今回の会計は私が払いますので、皆さんごゆっくりお楽しみください!」

そう言うと、すぐに立ち去った。

残された人々は顔を見合わせた。

「私たち、何か折田辻司さんの機嫌を損ねるようなことを言ったのかな?」と誰かが疑問を投げかけた。

「そんなことないと思うけど?あ、そうだ、折田辻司さんはどうして桃の里のことを知っているんだろう?もしかして桃の里の開発に興味があるのかな?」と誰かがすぐに気付いた。

「はは、さあね!」

「気にしないで、さあさあ、もう一杯やりましょう!」

折田辻司は出るなり、すぐに車を走らせて農家別荘を後にした。

車を出してすぐ、路肩に停車して電話をかけた。「田野秘書、今すぐグロバ観光開発株式会社が安則郡の桃の里を観光地として開発しようとしているかどうか調べてくれ」

田野秘書は電話を受けるとすぐに応じた。「はい、会長、すぐに調査を始めさせます」

折田辻司の部下として、桃の里という名前を聞いただけで理解した。

かつて会長が目をかけていたあの女性の実家が桃の里だった。

折田辻司は電話を切ると、軽くハンドルを叩いた。