三日後、鈴木花和は銀行から五百万以上の現金を引き出した。
町の銀行にはそれほどの現金がなく、県の銀行に予約してから引き出すしかなかった。
現金の引き出しは極めて慎重に行われた。
そのため、現金を村まで運び込んでも誰にも気付かれず、順調に進んだ。
「わあ、すごい額だね」
村長は配分の通知を受け、村の人々は、出稼ぎで帰れない人や間に合わない人を除いて、全員が村委員会の広場に集まっていた。
出稼ぎに行っている人の中には、家で現金が配られるという知らせを聞いて、急いで帰ってきた人もいた。
結局、この現金は一人当たりで配分され、一人七、八千円ほど、二人以上の家庭なら一万五千円以上もらえるのだ。
これは大金だ。
家には老人か子供しかいないので、これだけの大金を放っておくわけにはいかない。
広場の演壇には、現金の束が積み上げられており、人々は興奮を隠せない様子だった。
「こんなに大金を見るのは生まれて初めてだよ」
「私もそうだよ。誰が今まで見たことあるの?せいぜい銀行で職員が数えている束を見たくらいだよ」
「はは、私たちの村で、こんな大金を実際に見たことがある人なんていないよ」
「鈴木花和さんは見たことあるかもね。だって、以前は大都市でオフィスワークをしていたんだから」
「ああ、そうかもしれないね」すぐに誰かが同意して、「鈴木花和さんは世間を知っている人だからね。私たちみたいに山村に閉じ込められていた訳じゃないし」
「五百万以上の現金が積み上げられているなんて、全部持って帰って、その上で寝てみたいよ。きっと夢の中でも笑っちゃうだろうな」
「はは、随分と大胆な考えだね。まだ日が暮れてないのに」白昼夢を見ているようだ。
もちろん、これは純粋な冗談で、誰もこの冗談を真に受けてはいなかった。
「ハハハ、日が暮れたら、このお金は見えなくなっちゃうね」その人は大笑いしながら言った。
「このお金は見えなくなるけど、あなたのポケットにはお金が入るでしょう。あなたの家族は六人だから、分配すると四万円以上になるはずよ」
「あなたの家はもっと人数が多いから、もっと多くもらえるでしょう。五、六万円くらいかな」
「うん、まあまあかな」