018 奮い立つ

藤原美月は翌日出勤した。少し疲れた様子だったが、元気はあった。

誰も異常に気付かなかった。

二見奈津子は我慢できず、オフィスに誰もいない時に彼女に尋ねた。「長期休暇を取って、どこかに行ってみない?」

藤原美月は驚いて言った。「あなたの脚本も戻ってきたし、今年の映画祭のエントリーもあるし、いろんなイベントの準備もあるのに、休暇なんて取れるわけないでしょう?」

二見奈津子は藤原美月を見つめたまま、何も言わなかった。

藤原美月は微笑んで、彼女の肩を叩いた。「大丈夫よ、お姉さんは耐えられるわ。失恋なんて、男なんていくらでもいるでしょう?古い恋が去らなければ、新しい恋は来ないものよ」

二見奈津子は彼女の手を掴んだ。「そんなふうに言えば言うほど、あなたは彼のことを気にしているってことよ。まだ忘れられていないのね。仕事があなたの気を紛らわせてくれるなら、私は無理強いしないわ。でも、絶対に元気でいてね。私はあなたを必要としているの。仕事でも感情面でも!」

藤原美月の瞳が潤んで、二見奈津子を軽く押した。「もう!あなたったら人殺し!あなたがいれば、私は男なんていらないわ。そうだわ、私たちで一生を過ごしましょうよ!」

二見奈津子は笑いながら彼女の手を避けた。「やめて、私は一生お金と付き合うわ!」

「へえ!私のことを見下してるのね!」藤原美月は冗談めかして彼女を叩こうとした。

二人は暫く笑い合った後、落ち着いてきて、藤原美月は気持ちが随分軽くなり、感謝の眼差しで二見奈津子を見た。「あなたは天からの贈り物ね!奈津子、あなたがいて本当に良かった」

二見奈津子は黙って微笑んだ。

「そうね、私の心はまだ辛いわ。だって七年も一緒にいたのよ。私の一番輝いていた青春時代の隅々まで、彼の存在があったから。今終わりを迎えて、悲しくないはずがないでしょう?でも、悲しんでどうなるの?」

「最初から、彼は一生を約束してくれなかった。私は彼を愛していて、結果より過程が大切だと思っていた。まるで蛾のように炎に飛び込んで、粉々になっても後悔しないって思っていたの」

「奈津子、私は後悔していないの。ただ、少し悔しいだけ。七年かけても彼の心のほんの少しさえも得られなかったなんて。私って、そんなにダメな人間だったのかしら」

涙が一瞬にして、藤原美月の自嘲的な笑顔とともに落ちた。