井上邦夫も興味を示し、二人は佐々木和利を見つめていた。関口孝志だけが携帯をいじりながら、心ここにあらずといった様子だった。
佐々木和利は淡々と言った。「友達の友達だよ」
「女?」
「女だ!」
井上邦夫と橋本拓海が、一人は疑問形で一人は断定的に言った。
佐々木和利は軽く「うん」と返事をした。
井上さんは姿勢を正して、橋本拓海に目配せをした。「今夜からそこに住むよ。どうせ中は何でも揃ってるし、着替えを持ってこさせればいいだけだ」
橋本拓海が近寄ってきた。「俺も一晩泊めてよ」
井上さんは遠慮なく言った。「料金払えよ!」
橋本拓海は白い目を向けた。「払うわけないだろ!お前とヤったわけじゃないんだから!」
「お前みたいなのじゃ、この俺様の絶世の美貌には及ばないね!」二人は言い争いを始めた。
佐々木和利は軽く咳払いをした。「もし入居者が君たちに驚いて逃げ出したら、家賃を二倍取るからな!」
おや、随分と守ってやるじゃないか!
橋本拓海と井上邦夫は目を合わせ、意味ありげな悪戯っぽい笑みを浮かべた。
佐々木和利は説明する気も失せ、無視することにした。
関口孝志が突然立ち上がった。「用事があるから、先に行く!」
三人は関口孝志の後ろ姿を見送り、彼が入り口から姿を消すと、橋本拓海が言った。「あいつ、また何かおかしな薬でも飲んだのか?」
井上邦夫は長いため息をついた。「たぶん林千代に詰め寄られたんだろう。林家は最近の意思決定を誤って、全面的に崩壊寸前だ。緊急の援助が必要なんだろう。俺たちはご祝儀の準備をしないとな。いや、むしろ付き添い人の準備かな!」
橋本拓海が言った。「あいつの顔色見てみろよ。どこからそんな結婚間近で新郎になるって読み取れるんだ?」
井上邦夫は嘲笑した。「あいつが喜んでるかどうかと、新郎になるかどうかに、何の関係があるんだ?林千代を娶らなかったら、あいつの目の前で死んでみせるぞって言うだろう。本人は冷たくできても、母親にはそんな冷たい真似はできない。母親は林千代以外の嫁は認めないんだ!俺たちはそんな強気な母親を持たなくて良かったよ」
橋本拓海は黙り込んだ。井上邦夫の言うことが正しかったからだ。