「芸能界の人?女優じゃないよね?」井上邦夫が尋ねた。
「そうだね、たぶん違うと思う」佐々木和利が答えた。
もし藤原美月が芸能人なら、こんなに控えめに二見奈津子と付き合うはずがない。
井上邦夫は失望した:「まあいいや、お前からは有用な情報は得られそうにないな。芸能界の人なら、橋本拓海に聞いた方がいいかもしれない」そう言って電話を切った。
佐々木和利は呆然と電話を見つめていた。
彼は以前二見奈津子について調査をしており、長谷川透から詳細な報告書を受け取っていた。
しかし、今や同じ家に住んでいるのに、佐々木和利は突然、自分が二見奈津子のことを理解していないことに気付いた。調査報告書に記された大衆の前に存在する二見奈津子と、彼と一緒に暮らしている二見奈津子を結びつけることがほとんどできなかった。