032 酔っ払い

彼は好奇心に駆られて中に入っていき、左手には書斎があった。入ろうとした瞬間、関口孝志が叫んだ。「戻れ!部屋に入るな!」

佐々木和利は足を止め、精神病患者を見るような目で関口孝志を見つめた。

関口孝志はふらふらと立ち上がり、もつれた舌で言った。「こっちに来い。私たちの部屋に触れるな。散らかしたら、彼女の香りが消えてしまう。早く、こっちに来い。お前の匂いを、部屋に、残すな。お前!こっちに来い!」

泥酔した人間が、よくもこんな言葉を発せられるものだと、佐々木和利は足を引き、リビングに戻った。

関口孝志はようやく大きく息をついて、ソファに崩れ落ちた。「ここは、彼女が、丹念に、飾り付けた、特別な、特別な、特別に、いい場所なんだ。」

佐々木和利は理解した。この男は失恋したのだ。