036 絵を描く

二見和利の心の中に芽生えた二見奈津子への罪悪感と二見華子への不満は、二見華子の涙によって消し去られた。

幸いにも、二見奈津子は既に血のつながった家族の態度など気にしなくなっていた。

彼女は伸びをして、時計を見た。佐々木和利は今日早く出かけ、朝食を食べていなかったので、自分のことだけ考えればよかった。

彼女は適当に顔を洗い、スリッパとパジャマ姿でバタバタと階段を降りていった。半分まで降りたところで、ドアの鍵が開く音が聞こえた。

「気をつけてください。静かに動いて、人を起こさないように」長谷川透の声だった。

二見奈津子は急いで階段を上がり、着替えた。

再び階下に降りると、長谷川透が二人の作業員に指示して、大量の物を運び込んでいるのが見えた。イーゼル、画用紙、絵筆など、完璧な一式だった。

二見奈津子は呆然とした。

長谷川透は平然とした顔で言った。「奥様、これは旦那様が直接選ばれたものです。私たちにはよく分からないので、店員さんの薦めに従いました。こちらが店の電話番号です。他に必要なものがありましたら、電話一本で配達してもらえます」

二見奈津子はイーゼルに手を触れながら、長谷川透に尋ねかけた。「彼は―」

頭がおかしくなったの?なぜこんなものを買うの?

しかし、その言葉は飲み込んだ。

昨夜寝る前、佐々木和利がアトリエを上に移すように言ったことを突然思い出した。彼女が同意しなかったので、家にも一式用意することにしたのだ。

彼には何かこだわりでもあるのだろうか?

藤原美月の恋愛の邪魔にならないようにするため?

あるいは、藤原美月と付き合いたいの?彼女が邪魔だと?

二見奈津子は首を振って、考えすぎだと思った。

長谷川透は彼女が言葉を続けないのを見て、佐々木和利のことを聞いているのだと思い、「旦那様は今日重要な会議があって、直接会社に行かれました。お探しですか?」と言った。

二見奈津子は首を振った。「いいえ、結構です。彼に会ったら、私からお礼を言ってください。その、とても気に入りました、ありがとうと」

二見奈津子は、あまり深く考えないことにした。最悪、お金を払えばいいだけだし。

長谷川透が作業員を連れて帰った後、二見奈津子は袖をまくり上げて片付け始めた。佐々木和利がリビングで絵を描いていいと言ったのだから、遠慮はしないことにした!