藤原美月は玄関まで見送り、心を込めて言った。「ありがとうございます、井上さん」
井上邦夫は少し考えて言った。「井上でいいよ。僕も藤原さんのことを美月さんと呼ばせてもらおう。そのほうがシンプルだから」
藤原美月は笑顔で頷いた。「はい、じゃあまた会いましょう、井上さん。さようなら、瑞希ちゃん」
「ワン!」瑞希ちゃんは井上の腕の中で落ち着かない様子で身をよじった。
二人は顔を見合わせて微笑み、それぞれドアを閉めた。
翌朝早く、藤原美月はドアベルの音で目を覚ました。二見奈津子がまた鍵を忘れたのかと思い、パジャマ姿のまま開けながら文句を言った。「鍵がなくても暗証番号があるでしょう。お願いだから私の睡眠を邪魔しない――」
「ウー、ワン!」突然、瑞希ちゃんが彼女の目の前に差し出された。