井上邦夫は慌ててティッシュを差し出し、心配そうに尋ねた。「大丈夫ですか?」
藤原美月はティッシュを受け取り、軽く咳き込んだ。少し酔った顔は紅潮していた。彼女は軽く首を振って「申し訳ありません」と言った。
井上邦夫は安心して「ゆっくり飲んでください。急がなくていいですから」と言った。
藤原美月は「井上さん、ご心配なく。友達が迎えに来てくれますから。ご好意は嬉しいですが、結構です。ありがとうございます」と言った。
井上邦夫はようやく、なぜ藤原美月がこんなに大胆にお酒を飲めるのか理解し、心に小さな失望を感じた。
バーテンダーが急いでやってきて「藤原さん、二見さんが携帯に連絡が取れなくて、こちらに電話してきました。お酔いになっていないか確認してほしいとのことです。少し用事があって、すぐには来られないそうです」と言った。
藤原美月は呆然とした。二見奈津子に放置されたのだ。しかも、彼女が言い終わる前に、手痛い打撃を受けてしまった。
井上邦夫は笑みを隠しきれない様子で「藤原さん、どうせ同じ方向ですから、私がお送りしましょうか。お友達に迷惑をかけずに済みますよ」と言った。
彼女の友達も女性の友達だった。とても良いことだ。つまり、彼女には恋人がいない可能性が高い。井上邦夫の心は花が咲きそうだった。
バーテンダーは非常に丁重に「雄太さん、藤原さんは当店のVIPのお客様です」と言った。
井上邦夫は微笑んで「分かりました。では、スタッフの立場で藤原さんをお送りさせていただきます。当バーの名において、藤原さんを安全にご自宅までお送りすることをお約束します。藤原さん、私どもにチャンスをください。VIPのお客様にVIPサービスを提供させていただきたいのです」と言った。
バーテンダーは藤原美月が戸惑っているのを見て、急いで「藤原さん、井上さんは当店の株主の一人なんです」と説明した。
藤原美月は微笑んでバーテンダーに「ありがとうございます」と言った。
彼女は携帯を取り出し、二見奈津子からの不在着信を確認すると、彼女が忙しいことを理解し、LINEで「忙しいなら大丈夫よ。バーのスタッフが送ってくれるから安心して」と返信した。
携帯を置くと、井上邦夫に「では、井上さん、お手数をおかけしますが、VIPサービスをお願いします」と言った。
「光栄です!」井上邦夫は喜んだ。