192 争奪

林千代は慌てて言った。「あなたのせいじゃありません。主に展示会の期間中、お義母さんと一緒にいて、個別にお話しする時間がなかったんです。でも、あなたの様子を見ていると、とても元気そうで羨ましかったです。まさか今日ここで会えるなんて、本当に縁があるものですね」

向井輝も微笑んだ。

林千代は優しく愛らしい女性で、誰も彼女の熱意を拒むことはできなかった。

「一人なの?関口孝志は一緒じゃないの?」向井輝は社交辞令で尋ねた。

「彼は海外出張中なんです。私は友達と一緒に劇を見に来たんですが、さっき関口孝志から電話があって出てきたところです。まさか向井輝さんに会えるなんて、本当に偶然ですね!向井輝さん、あなたがデザインしたブレスレットのペアがとても気に入って、お義母さんにプレゼントしようと思ったんですが、手に入れられなかったんです」林千代は少し恥ずかしそうに向井輝を見た。

向井輝は理解を示した。「商品番号は覚えてる?後で在庫を確認してみるわ」

「本当ですか?よかった、向井輝さん!」林千代は喜びに飛び上がらんばかりだった。

向井輝が中に入ろうとした。

林千代は さりげなく遮った。「向井輝さん、私と関口孝志の結婚式のジュエリーをデザインしていただきたいんですが、お時間ありますか?」

「結婚の日取りは決まってるの?アシスタントにスケジュールを確認させるわ。時間があれば必ず協力させていただくわ。私の作品を気に入ってくれてありがとう」向井輝は丁寧に答えた。

「向井輝さん、本当にありがとうございます。どうお礼を言えばいいか分かりません」林千代は非常に興奮していた。

向井輝は微笑んで言った。「あなたたちが幸せになってくれれば、それが私の喜びよ。さあ、中に入りましょう。もう少し話していたら終演になってしまうわ」

林千代は申し訳なさそうに謝った。「申し訳ありません、向井輝さん」

二人は前後して中に入っていった。狭い通路で、前を歩いていた向井輝が突然立ち止まった。

斎藤由美は佐々木光に飛びついて、その腰をきつく抱きしめ、泣きながら言った。「先輩、私のどこがダメなんですか?もう一度私を見てくれませんか?」

佐々木光は緊張して両手を上げた。「君、ちゃんと立って話をしよう!」

「いやです!先輩、お願いです先輩、もう一度チャンスをください」斎藤由美は泣きながら言った。