「これは、本当に素晴らしいわね」向井輝と佐々木理恵は絵を囲んで眺め、手を伸ばすことさえ躊躇っていた。
藤原美月は事情を知っていて、微笑みながら溜息をついた。「下絵から刺繍の完成まで、3年の歳月がかかったの。一筆一針に心血が注がれているわ」
二見奈津子は微笑みながら、額を居間の中央の壁に掛け、見ながら言った。「私が彼らにできることは、これだけだったの。生前は、まともな記念写真一枚さえなかったから」
佐々木和利と井上邦夫は部屋の中を一周した。ここはかつて小さな麺屋で、テーブルは6つしかなく、あらゆる用品が整然と配置されていたが、ただ埃が多く積もっているだけだった。
隣の二人のおばさんが来て、嬉しそうに挨拶した。「奈津子ちゃん、帰ってきたのね!大勢の人が来たって聞いて、もしかして奈津子ちゃんかなって思ってたのよ」