田中弥生は夫のことばかり気にかけており、佐々木和利にこう言った。「私たち夫婦は家のことをあまり管理していませんが、この数年間、それなりの成果を上げてきました。佐藤健二の気持ちはわかっています。恩と怨みははっきりしていて、私たちを助けてくれた人には、できる限り恩返しをしなければなりません。」
「私たちには杉山という一人娘しかいませんし、杉山には二見奈津子という一人の子供しかいません。だから、あなたが私たちの頼りなのです。お爺さんが頼んだことはそのままやってください。頼まれていないことは、あなたの判断で処理してください。帰ったら、彼の助手から直接報告を受けるようにします。」
佐々木和利は一瞬戸惑ったが、最後には頷いた。「お婆さん、安心してお爺さんの看病をしてください。すべて私にお任せください。」
田中弥生は満足げに頷いた。
佐藤家は大きな家族で、幸い佐藤健二は次男だったため、家族全体の盛衰の責任を負う必要はなかった。
それでも、娘を探すことに全精力を注いでいたため、一族の不満を買っていた。族長である兄も何度か諭したが、佐藤健二は家族と感情を第一に考える人物だった。彼の「向上心のなさ」が一族の不満を引き起こしたため、思い切って家族企業のすべての職務を辞し、完全に佐藤家から離れることにした。
これまでの年月、彼らは娘を探しながら、ゼロから始めて、自分の好きなことを少しずつ事業にしていった。
彼らは娘のために、佐藤家とは無関係の独立した商業帝国を築き上げた。
佐藤健二は伝説的な人物だった。ビジネスの才能においても、家族や妻子への愛においても。
向井輝は心身ともに疲れ果てていた。
今村町への旅は、彼女の気持ちを晴らすことはできなかった。
彼女は佐々木光が恋しかった。とても、とても恋しかった。
しかし、彼に電話をかけることも、メッセージを送ることもできなかった。彼の仕事の性質を知っていたため、彼の安全を賭けることは決してできなかった。
アトリエで、二見奈津子からもらった「待つ」という絵を見つめながら、千々の思いが巡った。この人生で、どんな善行を積んだのだろう。心が千々に乱れた後でも、佐々木光のような素晴らしい男性に出会えるなんて。