217 仇敵

向井輝は手を上げ、この田中安という男の顔を平手打ちにしようとしたが、手首を掴まれてしまった。

田中安はにやにや笑いながら言った。「どうした?図星を指されて?恥ずかしくて怒ってるのか?リラックスしろよ。寂しくなかったら、ここに来るわけないだろ?図星を指されて照れちゃったの?」

向井輝は冷たく言った。「離せ!」

田中安は笑って言った。「なぜ離す?これはお前が自分から差し出してきたんだぞ。」

そう言うと、彼は向井輝の手の甲にキスをした。

向井輝は一瞬の躊躇もなく、左手でテーブルの酒瓶を掴むと、見もせずに田中安の頭に叩きつけた。

「あっ!」

田中安は向井輝がここまで大胆に行動するとは思いもよらなかった。両手で頭を押さえると、べとべとした液体が手のひらに付いていた。見てみると、血だった!

「この売女!」田中安は叫びながら、向井輝を罵った。

パリンという音とともに、向井輝の手にあったもう一本の酒瓶が半分割れた。彼女は田中安にキスされた手の甲に酒を注いだ——消毒のために。

田中安は怒り狂い、向井輝を指差して罵倒した。

周りの視線が集まってきたが、バーでこういった出来事は珍しくもなかった。

すぐにバーテンダーと警備員が駆けつけた。

田中安は片手で頭を押さえながら、もう片方の手で向井輝を指差し、叫んだ。「警察を呼ぶ!訴えてやる!刑務所に入れてやる!牢獄の苦しみを味わわせてやる!」

向井輝はまるで急所を突かれたかのように、突然生気を失った。

彼女は田中安を見つめ、じっと見つめていた。何も聞こえなくなり、ただ「牢獄の苦しみを味わわせてやる!」という言葉だけが響いていた。

二見奈津子と佐々木和利は急いで警察署に向かった。道中、二見奈津子は自責の念に駆られていた。「晴子さんは義姉さんをよく見ていてって言ってたのに。義姉さんは何か心配事があって、気分が優れないって。この数日、私はおじいちゃんとおばあちゃんのことで忙しくて、義姉さんが普段通りだったから深く考えなかった。私が悪いの、私が!」

佐々木和利は運転しながら彼女を慰めた。「お前の責任じゃない。落ち着け、義姉さんに会ってから話そう。」

「もしもし?内村弁護士、直接行ってください。私たちを待たなくていいです。すぐに警察に状況を確認して、義姉さんを保釈してください。」