井上邦夫と出会ったら、彼は料理の達人だったなんて。井上邦夫の前では、晴子さんは野菜も洗ったことがないほどで、もう古人の言葉なんて信じられなくなった。
井上邦夫は神様が晴子さんを補うために送ってきたのかもしれない?
井上邦夫が晴子さんを傷つけないことを願う。
彼女は知っている。晴子さんの心には穴があって、ずっと埋められていない。あのクズ男が残していったものだ。
藤原美月は最近、佐々木理恵のスケジュールをびっしりと詰めている。
五つのドラマで続けて端役を演じ、時代劇恋愛ものから現代都市ミステリーまで、役柄は小さく、女二号にも及ばないほどのモブキャラだった。
「あなたは演劇学校出身じゃないから、長く続けていきたいなら演技を磨かないといけないわ。作品の中で学びながら磨くより良い方法はないわ。人気を急いで現金化しようとしないで。人気は諸刃の剣よ。一時の名声に執着せず、いつか観客があなたの演技を見て、どの役も様になってると評価されるようになれば、この業界で本当に認められたということになるわ」と藤原美月は佐々木理恵にそう教えた。
佐々木理恵は深く心に刻み、自分をスポンジのように撮影所に投げ込み、撮影がない時は片隅で他人の演技を観察し、メモを取り、夢中になっていた。
二見奈津子も思わず言った。「彼女は確かファッションに興味があるって言ってたのに、どうして今度は演技に夢中なの?」
藤原美月は笑いながら溜息をついて言った。「この御曹司はただものじゃないわ。何をやってもそつなくこなして、努力しない人たちの居場所を全く残さないのよ。そうそう、この後ファンミーティングがあるから、一緒に来てくれない?彼女はクラウド所属のタレントだから、応援に来てほしいの」
「承知しました!」と二見奈津子は答えた。
彼女たちのスタジオは佐々木和利と井上邦夫の助けで会社に昇格し、クラウドという名前になった。藤原美月が付けた名前だ。
佐々木理恵は衣装を着替えてステージに座り、ファンにサインを書き始めた。今回のイベントは後援会が主催で、時間は長くなく、佐々木理恵は写真にサインをしてファンにプレゼントし、ファンと交流して質問に答えた。
ファンが佐々木理恵になぜ小さな役を引き受けるのかと尋ねた時。