260 目覚め

二見奈津子の涙が佐々木和利の手のひらに落ちた。

「あなたが私を愛してるって言ったけど、熱で頭がおかしくなってるんじゃないの?はっきりした頭で、もう一度言ってほしいの!」

「私、言ったでしょう。次の人生では早めに私を見つけて、恋愛の仕方を教えてって。今、私たち一度死んだことになるでしょう?新しく始まったの。早く目を覚まして、恋愛の仕方を教えてよ!」

「私はいろんなことができるけど、恋愛だけはできないの。どうやって人を愛せばいいのかわからない。あなたが教えてくれないと、どうやって覚えられるの?」

二見奈津子は抑えきれずに泣き続け、若い看護師も見るに耐えられず、そっと部屋を出て行った。

二見奈津子は佐々木和利の手で自分の手を包み、彼の手の付け根を優しくなでながら:「和利さん、今わかったの。私もあなたを愛してる。誰かをこんなに心配したことなんて今までなかった。和利さん、私、わかったの。目を覚まして、ね?私たち、ちゃんと恋愛しましょう?晴子さんと井上邦夫さんみたいに恋愛しましょう?目を覚まして、目を覚まして、お願い?」

二見奈津子がこんなに悲しく泣いたのは、養父母が亡くなった時以来だった。

もう二度と涙を流すことはないと思っていたのに、今、様々な医療機器が繋がれ、酸素マスクをつけた佐々木和利を見て。

あの時、養父母を失った恐怖が、再び彼女を包み込んだ。

佐々木和利を失うわけにはいかない。佐々木和利と一緒にちゃんと生きて、ちゃんと愛し合いたい。

彼女は自分を愛してくれる、そして自分も愛する人を見つけた。佐々木和利と一緒にちゃんと生きていきたい。

「和利さん、お願い、目を覚まして?私、怖いの。私を一人残して行かないで。」二見奈津子は佐々木和利の手のひらに顔を寄せた。

佐々木和利はいつも彼女に小さな仕草をしていた。頭を撫でたり、頭を触ったり、そして、突然、唇を奪ったりもした。

そうか、彼はずっと前から彼女のことを好きだったんだ。あの小さな仕草の一つ一つに、愛情が込められていたんだと、二見奈津子は突然理解した。

もう一度、彼に顔を触ってもらいたいと、どれほど願っていることか。

佐々木和利の指が突然かすかに動き、二見奈津子の頬に、かすかな優しい触れ合いを感じさせた。